しばらくすると、明日菜ちゃんは小さく、あっ、と声を出して、嬉しそうに笑った。僕はお構いなしに縁台の下をのぞき込むと。長い舌を出して、手の平のトウモロコシの粒を口に運んだ所だった。僕の顔は一瞥しただけで、すぐに食べるのに夢中になる。といっても、ほんの二、三粒。噛むと言うよりは飲み込む感じで、後は顔の周りの掃除に余念がない。

明日菜ちゃんはまた、自分の分のお裾分けを囓る。それを何度か繰り返しているうちに、ブチクロは縁台から顔を出して、直接明日菜ちゃんに顔を向けて、またニャー、と鳴いた。

「うわっ、デカっ」

その顔を見て、明日菜ちゃんは素っ頓狂な声を出した。確かに、ブチクロの顔は迫力がある。頬の辺りがぷっくり脹らんでいて、野良猫だから白の毛がくすんでいる。耳の辺りには喧嘩の痕があって、時々そこが膿んでいるのを見かけることもある。そして何より、面積が広い。見ようによっては、ソフトボールぐらいはありそうな気がする。

明日菜ちゃんがまたトウモロコシを与えても、もう縁台に隠れることもなくなった。その頭を撫でてやっても、逃げようとはしない。

「汚れるよ、野良だから」

僕がそういっても、明日菜ちゃんは撫で続ける。そのうちブチクロは、そのコンクリートの上に落ち着いてしまった。野良猫を長くやっていると、警戒と慣れの使い分けが旨くなるのだろうか?

 

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