その一号は、ユキちゃんの両親の目の前で、今頃、どんな顔をしているのだろうか?

「だいたい、この時期に子供を作るなんて、どうかしているよ。原発事故のあった日本にいて、福島や関東だけがやばいと思っているなんて、楽天的すぎる。ど〜んと、爆発があった時点で、この日本自体がもうヤバくなっていると考えるのが普通だよな」

僕は誰ともなく、そうまくし立てて、自分の表情に現れそうになった何かを押し止めた。とばっちりもいい所だし、冷静に考えれば不謹慎きわまりないのかもしれないけれど、それは全くの出任せのつもりもなかった。

なんとなく、僕の中に巣くっている諦めの感情は、このところいろんな瞬間、瞬間で顔を出してくる。顔を出して、後ろを振り向いて、僕を見ながら「ね?」と念を押す。だよな、と僕は納得して、諦めを積み重ねる。

そして今は、それがいつ始まったのか、ずいぶんと早い時期から始まっていたような、そんな気がしている。

言い放って、顔を上げると、妹が僕の目の前にトウモロコシを差し出していた。何も言わないのは、きっと僕が子供、という言葉を使ったからだろう。妹にとって、子供というのはある種のNGワードになっているのを、僕は慌てて思い出した。だが、しくじったのはこれが初めてでもなかった。

僕はとりあえず当面の状況を取り繕うために、そのトウモロコシを受け取り、がっついた。ぐるりと一周してから、それがさっき落ちた奴だと思い出した。

 

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