再びパタパタやり始めた妹が、急になにかを思いだしたように、こちらに視線を向けた。隣で明日菜ちゃんは、一生懸命トウモロコシをかじっていた。前歯で上手に、少しずつ少しずつやっつけていく。

「今晩、丸亀、花火じゃなかったっけ?」

祭り?と聞き返すと、隣の明日菜ちゃんが、まだ口をもごもごさせながら、今日ですよ、と応えた。丸亀は、明日菜ちゃんの地元だ。彼女が通う高校も、同じ市内で、彼女と一号と一緒に出たライブも、高校の目の前にそびえるお城だった。

「みんなで、見に行こうぜ」

と妹が言った時、七輪の炭か何かが爆ぜた。ぱちん、という乾いた音がして、妹は機敏に避けたが、バランスを崩して、しりもちをついた。偶々転がしていたトウモロコシが地べたに落ちる。だが、妹は何事もなかったように、座り直して、そのトウモロコシを手に取ると、何喰わぬ顔で、また七輪の上に乗せた。

おそらくそれは僕の口に入る物で、落ちたからといって妹が食べるわけでもないだろう。この庭が、どれだけ汚れているか、どれだけ健康に害はないのか、それは僕にもわからない。でも、なんとなく、気にしても仕方がない、という気がした。

諦めと言っていい感情が、今はなんとなく、僕の中には、漂っていた。

それは今この瞬間芽生えたわけでもなく、別にあの大きな災害から始まったわけでもなく、漠然と僕の中にずっと住んでいて、只、あの瞬間、目の前で確認したような気分だった。もう何処に行っても、長生きできる条件は、ますます厳しくなって行く。安全という言葉は、呑気な僕にも全く信用がおけなくなっていた。

 

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