一度職場復帰した頃、僕は日頃のお礼に、とモモちゃんをドライブに誘った。最初は食事だけのつもりだったのに、結果鳴門まで足を伸ばした。せっかくだから、金比羅さんのちょっとおしゃれなレストランを予約して、そこから徳島に抜けて、吉野川を下りながら、鳴門まで出たのだ。

徳島の市内から、鳴門のスカイラインを通って、11号線に抜ける手前にホテルが連なっている場所がある。高松から向かってその逆のルートを取るにしろ、鳴門は僕にとって、不埒な目的を持って女の子とデートをするには最適の条件を備えていた。だから、そこに向かうと言うことは、自ずと頭の中に特別な思惑がある、ということだ。

鳴門で適わなくても、そこから津田や、志度の辺りにも予備はあり、詰田川、坂出、宇多津、善通寺吉原、と不埒な思惑は口を開けて待っていた。

本当は、僕自身、そこら辺の欲望は曖昧だった。女の子とドライブして、何もないのは味気ない。だからといって、その先の恋愛が見晴るかす茫漠とした荒野に足を踏み入れるには、僕はなんとなく「意欲」に欠けていた。口説いてもいいし、口説かなくてもいいし、口説いて失敗してもいいし、という消極的な想像でしか、その時ドライブに誘う、という行為を正当化できなかった。

はっきりと、モモちゃんを彼女にしたい、という願いは、持ってなかった。ただ、チャンスはモノにしたい、という望みは持っていた。

それでも、スカイラインの一番高い所の休憩所で、少し夕景を見て、また走り出すと、ちょうどあかね色が溶けた闇が深くなってきた。殺風景な内装の、ありふれた車の中だけど、低くボリュームを抑えて流れる高野寛が、下心の浸透を許した。高野寛をBGMにすると、何故か女の子とホテルに入ることが出来る、というジンクスがあった。その辺は用意周到で、頭の中とは裏腹に肉体的な欲望だけはちゃんと細かな気を回してはいたのだけど。

ちょうど、鳴門のホテル街は、通り過ぎたけど、僕はそこでなんとなく、という感じで、話を切りだした。11号線に出て、またテールランプに紛れたころに、モモちゃんは照れた様子で、イイですよ、と小さな声で返事した。そのまま津田の辺りで、港の方への小道にはずれて、僕らはホテルの駐車場に車を止めた。

 

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