妹は一本ずつ、丁寧に炙る。焦げ目に、何かこだわりがあるらしく、けっこう真剣に、神妙な目つきでやっている。

庭の真ん中でやっている妹を、わずかに見下ろすように見ながら、明日菜ちゃんは縁台から素足をブラブラさせながら、ふと、僕に言った。

「先生、指、大丈夫?」

彼女の視線は、僕の右手の小指に移動する。向こうで、妹が先生、に反応して、フン、と鼻で笑うのが聞こえた。

「ああ、痛みにも馴れたよ。痛みが取れたっていうより、痛まないようにするのに馴れた、って感じかな」

僕は手の平を拡げて、表、裏、とくるくる回してみた。小指の先には絆創膏が貼られ、そこを白い包帯がぐるぐる巻きになっている。昨日消毒に行って、巻き直したばかりなので、まだ包帯は白さを保っていた。また今度、月曜日に巻き直しに行く。

「でも、驚きましたよ、怪我するなんて」

怪我して初めて明日菜ちゃんと逢った時、彼女が人目も憚らずワンワン泣きだしたのを思い出す。それから、余り怪我のことが話題に上ることはなかったけれど、痛い時には素直に痛い、といっていた僕は、彼女の前でも同じで、その度に、明日菜ちゃんは険しい顔になった。

「無事に夏休みが終わってホッとしました」

その声は心底、安心したように響いた。無事に、の言葉の真意が、どこら辺にあるのかわからなかったけれど、僕にしてみても、明日菜ちゃんをセッションに連れ出す、というイベントがなければ、怪我をしただけの散々な夏になったかもしれないな、となんとなく思う。

 

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