その花壇を見ながら、僕と明日菜ちゃんは、畳敷きの居間から張り出した縁側に腰掛けていた。僕らの目の前で、妹は七輪を出して、火をおこしてパタパタやっている。エプロンがお気に入りなのか、さっきうどんを食べていた時と恰好が変わらない。そうやってしゃがんで頭にはちまきでも巻けば、立派な屋台のおばさんに見えた。妹も歳を取ったな、と思う。

さっきまで吹いていた風は、どこかに消えてしまった。香川の平地は何処も海に面している。例外なくここら辺も海に近い。でも、北風が吹かない限り塩の匂いは香ってこない。今は逆向きの風が、時々思い出したように吹いているだけだった。

思い出した時に吹く風は、僕らの目に煙を刺した。僕も、明日菜ちゃんも手で扇ぎながら、目の端から涙をこぼす。妹もわざと、盛大にパタパタやる。一緒に、香ばしい匂いが漂ってくる。

ついさっき、妹に呼ばれた明日菜ちゃんが、花壇でもひときわ背が高く、目立っているトウモロコシの前で、好きなのもげ、と命令されて、大きそうなモノを三本、むしり取った。そして、馴れない手つきで皮をむいていると、妹が裏の物置から七輪を出してきて火をおこし始めた。

昔、例の愛媛の山奥の実家に行くと、親戚連中が、畑に入ってトウモロコシを取ってきてくれて、それを庭で七輪で焼いて食べさせてくれた。それは何物にも代え難いほど、旨かった。僕は怖さの残る実家で、唯一惹きつけられるのが、その取れたてのトウモロコシだった。

ただ、妹は昔から、食べるよりも七輪の方に興味津々だった。中学ぐらいになると、パタパタやらせてもらえるようになり、やがて、火のおこし方を教わって、いつの間にか妹が七輪係、になっていた。今年の夏も、妹は親戚の子供達の前で、パタパタやって、人気者だった。

それを、自分のうちでも、というのは当然で、ある意味花壇を整備するつもりになったのも、そこに繋がる思惑があるのは間違いなかった。ただ、どうも僕と二人だけで、というのも味気なく、年に一度、一人七輪、が関の山だった。

明日菜ちゃんが、そこに飛び込んだ絶好の客だったわけだが、彼女自身も、別に嫌そうではなかった。妹と花壇に入り込んで、ガチャガチャやっているのは、微笑ましい光景だった。ただ、制服が汚れなければいい、と心配にはなった。

 

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