そのタッチャンと、この間の法事で、顔を合わせた。僕と妹は、二人して、彼の子供の前で、その話をしてやった。君達のお父さんは、おじいちゃんが死んだ時に怖いと言って泣き出したんだぜ、こんな失礼な奴いるか?みんな悲しくて、泣いているのにな、と言ってやった。よしてくれよ二人とも、とタッチャンは苦笑しながら、何とか父親の威厳を保とうとしていたが、まだ幼い子供達はきょとんとして、上手く伝わらなかったようだ。

ただ、法事の後の宴席で、今でもまだ怖いか?と尋ねると、タッチャンは明確に、怖い、と言って頷いた。

その時も妹は、ホラーだよ、ホラー、と言っていた。

「たぶん、東京には逃げていったんだ。こっちにいたままだと、毎年うちみたいに無理矢理引っ張り出されるし」

でも、と明日菜ちゃんがほほえみを浮かべて、妹に言った。

「東京に行ったからって、怖いものは怖いですよ。逆に離れると、怖さの残像だけが残って、やっかいな気もするし」

至極もっともな意見だった。ただ、妹も、でもな、と反論する。

「東京は夢の街だよ。今は人気者にも会えるんだろ?そんな場所、そうはない」

それもまた、極端な意見だとは思うけれど、ただ、なんとなく、僕らの中に東京は特別、そして県外は遠い世界、みたいな感覚があるのは確かだ。同じ四国でも、愛媛はともかく、徳島や高知はなんとなく、時々行く場所で、本当は一番近い岡山でも、海を越える、という苦難の果てに辿り着くせいで、まるで知らない世界だった。

僕らは、気付けばそんな、狭い世界の中で、日々を送っている。

「明日菜ちゃんも、夢の街で人気者になりに行くんじゃないの?」

ギターで、と妹は付け加えた。

そんなに上手くは行きませんよ、と言いながら、明日菜ちゃんは、ほんのわずか、首を傾げた。目の前のめんつゆの入った小鉢を、そっと指先で触って弄びながら、こう付け加えた。

「それでも、ちょっと下心はあります」

いいね、下心。と、妹は嬉しそうにニヤニヤした。

 

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