突然、祖父が聴いたこともないようなうぉーっ、というような唸り声というか、叫び声を上げた。そして引きつったように、顔を硬直させたかと思うと、カッと目を見開いた。そして、唸りながら、飛び上がるように上半身を起こしたのだ。

がばっと布団をはねのけ、上半身を起こした祖父は、この世のものとは思えない唸り声と、今までみたこともない般若のお面のような威圧に満ちた皺を刻んで、何処を見るともなく宙を睨んでいた。

僕らはあっけにとられて、その様子を、間近に見ていた。僕らの目の前に、祖父の恐ろしい形相があった。

おそらく、ほんの一瞬の出来事だったに違いない。でも僕らには、酷く長い時間に思えた。

唸りが途絶えると、ああああっ、と何か無念そうな声とも思えない声を震わせて、祖父はバタリと仰向けに倒れた。あっけにとられていたのは、周囲にいた者だけでなく、医師もうそうだった。何が起こったかわからない、という顔をして、皆唖然としたまま動きを止めていた。

それを切り裂いたのが、タッチャンだった。

タッチャンは、火がついたように泣き始めた。確か当時、まだ幼稚園かそこらで、それは祖父の形相に負けないぐらいの叫びに近かった。怖いよー、と何度も繰り返し、泣き続けた。

そこで我に返って、医師が脈を取って、臨終を告げた。

 

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