タッチャンとはついこの間、逢ったばかりで、例の実家の法事の時に顔を出していた。子供二人と奥さんを連れて親戚一同の前に顔を出すのは初めてだったので、ある意味、法事の主役はタッチャンだった。

幼い頃のタッチャンは、まだ松山に住んでいて、親族が集まる時には、歳の近い僕や妹と一緒に纏めて扱われていた。オヤジは一応長男で、一家の長だったはずだけど、結婚が遅かったので、他の兄弟の子供は皆ずっと大きかった。唯一、一番下の弟の子供のタッチャンが、ちょうど同じくらいの世代だったのだ。

そのタッチャンをもっとも深く印象づけたのが、祖父の葬式の時だった。長らく患っていて、最期は病院から自宅に戻って、往生の時を迎えた。数日前からもうその兆候は見えていたので、連絡を受けた親族が、看取りに集まっていた。

祖父の家、つまり僕らの実家というのが、愛媛の山奥の谷間にへばりつくような所にあって、古い木造の旧家だった。辺りはうっそうとした木立が並び、人の住む空間だけ開けたような場所だった。すぐ側に舗装された道路が走っていたけれど、車の気配はなく、いつも静かで、どこか不気味だった。

建物自体、もういつ建てたのかわからないほど、古い家で、裏にはすぐ山が迫っていて、迷路のような複雑な間取りになっていて、気がつくと異世界へ取り込まれるとか、座敷わらしが顔を出す、というような話を信じられるほどに、子供心にも不思議な家だった。

そこに親戚連中が集まって、もう寝たきりの祖父を囲んでいた。母や、そのほか女手は皆かいがいしく台所を行ったり来たりしていたけれど、祖父が寝ている部屋だけは、ひっそりとしていた。

 

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