「それにしても、バンドやっていると、自然とそういう人脈が出来るわけ?兄ちゃんにはそういう話は聞かないけど、世代?」

僕は肩をすくめる。アタシも東京行って、芸能人になろうかな、と妹はテーブルにひじを突いて、天井を仰ぐ。熟女AVとか、と自分で言って、クスクス笑う。

どうも、妹は東京は人外魔境、別の国かなにかだと思っているようだ。行ったことがないはずはないし、今時東京と地方の差を、意識するのは政治家ぐらいなもので、何処に行っても不況は続いているし、それなりの幸せと、それなりの不幸が、せめぎ合っているものだ。というより、地方の何処に行っても小さな東京がある。

ただ、誰かが言っていたけれど、地方はいつも東京を見ているけれど、かといって東京がずっと地方を見ているか、というとそうではない。東京はいつも、世界を見晴るかしているらしい。世界と比べて、東京という街を考えているのだそうだ。

それを言ったのは誰だったか、を考えて行き当たったのは、一人のいとこだった。ほとんど唯一、歳の近い従兄弟が一人だけ、東京に住んでいた。東京の大学に行って、そのまま東京で就職した。なんの仕事をしているのかは、よく知らない。

「ああ、タッチャンが東京にいるね」

「ああ、タッチャン」

妹は、その従兄弟の名前を聞いて、ニヤニヤする。きっと僕と同じことを考えたはずだ。

「タッチャンといえば、この季節、思い出すよな」

ああ、タッチャンね、タッチャン、と妹は更にニヤニヤと意味深な笑いを重ねた。

余りにも内輪の笑いに、明日菜ちゃんはまたしても蚊帳の外できょとんとしていた。

 

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