町間摩耶、といえば、郷土が産んだ大スター、とまではいかないが、夜のニュースの看板アナウンサーで、お父さん世代のファンが多いことで知られる。派手さはないが、しっとりとした大人の趣のある、そういって好ければ信頼の置ける数少ないテレビ局の人間だ。

仕事が忙しくても、ちょうど町間摩耶が出ているニュースの始まる時間にはだいたいは家にいるので、決まって見るニュース番組になっていた。それが、地元出身、というのはずいぶん後になって知ったことだった。

確か、町間摩耶の実家は県内でも有数の家具工場で、一時期は経営が傾いたが、輸入家具の販売にシフトしたり、建具の修理やメンテナンスで、何とか持ち直した、という新聞記事を読んだことがある。フットワークの軽さで不景気を乗り越える、みたいな特集だった。そこで初めて町間摩耶と僕らの住んでいる場所のとの繋がり里を知ったのだけど、いわば地元の名士、経営者一族の連なりで、やっぱりテレビに出る人は、それなりに身持ちがしっかりしているんだな、と思ったものだ。うちみたいな一介のサラリーマンの家族には、とうてい想像もつかない。

「ああ、そういえば、トモくんのおじさんの家は、木工工場だったね。おじいさんが、職人さんで工場を立ち上げて、とか言ってたな」

それで、幼い頃から木の響きに親しんでいて、その恩恵を、目の前の明日菜ちゃんが受けているわけだ。明日菜二号は、トモくんの耳が選んだ。

「詳しい事情はよく聞いていないんですけど、ちょうどトモが産まれた時と、そのニュースのキャスターの仕事が舞い込んだ時期が重なってて、スキャンダルになるからとかで、叔父さんの家に預けられたらしいんですよね」

「それで今になって、母親って名乗り出たワケか」

明日菜ちゃんは、眉間に皺を寄せて、困ったような表情になった。それが、と言葉を濁す。

「トモ自身は、ずっと前からそのことを知っていて、年に一度くらいは会っていたらしいんですよね」

「隠していたってワケ?」

初めて、妹が口を挟んだ。その言葉に、明日菜ちゃんは頷いただけだった。

 

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