「AKBかぁ・・・」

食卓にひじを突いて、手にした箸をカチカチ開いたり閉じたりしながら、妹はしみじみ云った。

「あの歌詞を小娘に歌えるのかなぁ・・・あれは、日々の生活に追われる主婦の深い悲しみに裏打ちされた歌だぜ。AKBかぁ・・・」

妹の云う所の、日々の生活に追われる主婦の深い悲しみ、を朗々と歌い上げた歌詞に、妹が付けたタイトルは「アザラシ・シロクマ」だ。妹の言葉を、驚きの目で明日菜ちゃんはまじまじと見つめる。

「まぁ、バンドはたくさんの人に聴いてもらってナンボだからな、まぁ、イイか」

妹は一人で納得したようだ。。

「元あっちゃんかぁ・・・」

妹はそう、何度も呟いて、眉間に皺を寄せた。そして、うどんをひと啜り。

ちょうど、妹が背にしているキッチンのシンクの上に開かれた窓から、心地よい風が吹き込んできた。東に向いた窓があるのはキッチンだけで、一階は気持ちよく風が通る。その御陰で、夏の間でも冷房を点けることは少ない。冷房ルールも、一階を基準にして作られている。南北にしか窓の開けていない、僕の部屋がある二階は台風でも来ない限り風は抜けていかない。

それでも、今年の夏の初めは、大気の状態が不安定な日々が続いて、朝夕関係なく、雷雨が襲った。そのせいで、一日中強い風の吹く日が多かった。計画停電を周知するはがきが届いた頃は、まだまだ涼しさに溢れていた。

結局、土曜以外、冷房を点ける日は数えるほどしかなかった。ただ、天が電力会社に味方した、という風に考えるのは癪だったので、残暑の厳しさに僕は期待をしている。

「元あっちゃんか」

妹はまだそう言っている。

 

戻る 次へ