食卓を囲む三人の共通項として、まだガラスのボールになみなみと泳いでるうどんがもったいない、というのがあって、時々思い出したように箸を延ばすのだけど、一口啜っても、なんとなく次が続かない。全く食べられないわけではない、中途半端な不味さが、またやっかいだった。

とりあえず、もったいなさと不味さを中和するために、何とか食卓の会話、という奴を盛り上げようとした。普段、僕と妹は、こうして食卓を囲むということが少ない。食事は全て、妹の手によるけれど、仕事で朝が早い妹と時間が合わないので、僕は食卓に置かれた物を暖めて、一人で食べていた。

それでいて、休みの日は時々、会話はする。顔を合わせるのが嫌なわけでもないし、互いの生活圏に干渉するのも控えている。そのバランスを取るのは、他人ほど難しくはない。だから気楽にやっている。

だから、これといって僕と妹の間に、話題らしい話題はない。とりあえずの懸念は、先ほど解消した。今ある懸念は、なかなか収まりそうにない。そうなると、自然に話題の中心は、明日菜ちゃんになった。

「やっぱりセーラー服?夏休みじゃね?」

妹が発言して、うどんに手を伸ばす。そんな些細な仕草が、その後僕ら二人を見回すことで、何か儀式のような様相に変わる。それはまるで突然どこからか降って湧いた罰ゲームのルールのようだ。

「真摯な態度と心意気です。ギターを弾く時は、これが一番楽なんですよ。本当はもっと楽な恰好もあるけれど、それはさすがに此処でも見せられません」

そういってにこっと笑うと、明日菜ちゃんはうどんを箸でつまんだ。ついに罰ゲームルールの発動だ。僕は、発言するのに躊躇する。

「あっ、歌詞、ありがとうございました」

 

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