詳しい原因はわからないが、ほぼ間違いなく原因のトップは、妹が小麦粉から打ったからに違いない。

いつの頃からの習慣になったのか、季節の変わり目、特に夏と冬の入り口で、家の大掃除をする。衣替えのついでに、僕と妹は話し合って、家のメンテナンスをする。だいたいが物置を整理したり、新しく棚を設えるために日曜大工をする、というようなことになるのだけど、今年は袋戸棚の整理、が中心の課題だった。

その時に、妹が仏壇の上の年に一度も開けないような棚の奥から、新聞紙にくるまれた大きな木枠の箱を見つけた。一見昔の道具入れみたいな細長い箱を開けてみると、中には一本の棒きれと、分厚い布にくるまれた鉈のような包丁が入っていた。妹と僕はそれを取りだし眺めてみて、しばらくしてやっと、それがうどんを打つ道具だということに気がついた。

香川の家には、麺棒とうどん鉢が十以上、必ずあるというのはほとんど都市伝説みたいなものだけど、ある所にはある。うちの場合、父親も母親も、実家も愛媛だから、生粋の香川県人、というわけではないはずだ。それでも、うどんアイテムが大事に仕舞われていたことに、僕らは素直に驚いたのだ。

妹はそれを丁寧に洗い、麺棒は天日で干して、包丁は通販で買った電動の包丁研ぎに何度もかけた。僕はそのまま忘れていたが、妹の中では、手打ち熱が燻っていたのだろう。ついに、その日がやってきた、というわけだ。

 

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