「うわっ、クッソ不味い」

最初にそう悲鳴を上げたのは、作った張本人の妹だった。

それだけに止まらず、殺人的なまずさだ、と付け加える。それを、僕も、向かい側に座った明日菜ちゃんも、ただ唖然として、見ていた。僕にしても、言いたいことは、妹と全く同じなのだけど、調理人に配慮して躊躇ったのだ。

もちろん、明日菜ちゃんも同じ思いなのは、見ているだけで解る。さっき指がもつれたのとは少し違う角度で、難しい顔をしている。だが、僕以上に気を遣っているのだろう。

何が悪いんだろう?と性懲りもなく、妹はもうひと啜りする。そして、うわぁ不味い、と改めて言う。顔をしかめて、箸で氷を浮かべたボールの中の、白く細長いうどんの麺を突っつき回す。黒のジャージのズボンに派手なプリントの着いた安物のTシャツという、中学生の運動部みたいな恰好に、エプロンをしている妹が、そんなふうにすると、本当に乱暴に見える。

何処が不味いのか、具体的には腰が無いというよりふにゃふにゃで、そのくせ中まで火が通っていないかのように、芯がパサパサだ。

「見ず知らずの人に出したら、暴動が起きるレベルだぜ」

ようやく僕が口を開いて、妹に同調すると、向かいの明日菜ちゃんは、僕と妹を交互に見た。上目遣いで大きな瞳が、くるくると僕と妹の顔を行ったり来たりする。

「明日菜ちゃんは無理して食べなくていいよ」

この際、救いはこれが冷やしうどんだったことだ。ガラス製のボールにたっぷりと、氷水に麺が浸かっていて、欲しい分だけ手元の小鉢に移して食べる。小鉢には、小豆島産のめんつゆが満たされている。麺さえよければ、夏の昼下がりにこれほどのごちそうはない。

台無しだな、と僕が言うと、しまったな、と妹は悔しそうに唸った。

 

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