そこで火がついた彼女のセッション熱は、冬になっても冷めることなく、三年生になっても続いた。夏休みを有意義に過ごす、最大の予定に、すでに僕が組み込まれていて、レッスン以外にもいくつか、スタジオで音を出す予定が入っていた。

それが僕の怪我で、台無しになる、と彼女は思ったらしい。僕も最初はそう思っていたけれど、別に僕自身が、弾かなくてもよいことに気がついて、結局夏休みを有意義に過ごすことに、なんの翳りも射すことなく、滞りなくほとんどのセッションをこなした。

確かに、彼女はのめり込むに見合う、上達ぶりを見せた。家でもずいぶんと、弾き込んでいるらしかった。僕の部屋からいくつものCDを持ち出し、音楽雑誌を持ち出し、ついでに何本かのギターとストンプボックスも持ち出した。

そのいくつかは今は彼女の足下に並べられている。そこからシールドが50Wのマーシャルヘッドに伸びている。長方形の黒とゴールドのパネルが填め込まれた木製の箱の中には、真空管が赤い灯を点している。その裏からまたシールドが伸び、DIを介してパソコンデスク横の16チャンネルのミキサーに繋がれている。そこからヘッドフォンへ音を送るのと同時に、ハードディスクにレコーディングできるように細工している。

ミキサーには僕のギター用の、ラックタイプのマルチも繋がっていて、足下にはコントロール用にペダルやスイッチボックスが並んでいる。ミキサーに火を入れると、他にもライン・アンプや、ボーカルプロセッサーも同時にスイッチが入るようになっていて、ギターの練習から曲作り、簡単なレコーディングまで出来るように設定しているのだ。

アンプもミキサーも、充分この部屋の室温を上げるのに貢献している。パソコンだって、さっきからファンは唸りを上げている上に、外付けのHDまでもが熱を上げている。

それに加えて、明日菜二号を抱えた彼女は険しい表情で、何度も細かい動きに精を出している。文字通り熱くなっている。額にうっすらと浮かぶ汗だけでなく、夏用の制服も背中がほんのり汗で透けている。僕の視線を気にすることはともかく、不快だろうに、と思うのも忘れて、彼女は集中している。

冷房に加えて、扇風機まで回しているが、マーシャルの真空管も、彼女も、そう簡単には熱が冷めそうにはない。

まさしく、節電の夏、くそ食らえ、だった。

 

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