僕自身、レッスン以外、自宅以外で、自ら望んでエレキを弾いたのは久しぶりで、疲労以上に相当に打ちのめされた気がしていた。普段のアコースティックも、鉄弦でそう変わりはないはずなのに、タッチの違いがひどく僕を苛んだ。おまけに、立って弾くのにもなかなか慣れなかった。疲労の半分以上は、寄る年波から来ているのも、否定できなかった。

彼女はきっと、それ以上だったに違いない。スタジオの中の彼女は、一番年下で、一番経験が少なく、唯一の制服だった。彼女はなぜか、何処に行くにもギターと制服がセットだった。真摯な態度と心意気、というのがその理由だそうだ。

そういう気持ちも、なかなかスタジオの中では発揮できなかった。物怖じしない性格を自負していたはずのなのに、けっこう人見知りに近いものが顔を出したのに、自身が戸惑っていた。テクニック的なことは全く遜色ないのにもかかわらず、空気感が馴染まないのだ。それはまさに、経験の裏打ちが為せる技なのだと、僕は一緒に演奏しながら思ったのだった。

帰り道を送ってゆく車の中で、彼女はしきりに、リベンジ、リベンジ、と繰り返した。誰でもイイから、また一緒にやりたい、の常套句は、それから僕と顔を合わせると一度は言う台詞になった。とにかく、彼女は車の中で、酷く興奮していた。

それが一段落して、ところでキーボードさんが名刺くれたんですけど、といって助手席で掲げて見せた。ギターで食えなくても、僕が面倒見てあげるからいつでも連絡して、って云って渡されたんだけど。

信号待ちで、その名刺を受け取ると、しっかりと城東町でひときわ目立つ看板の、店の名前が書かれてあった。僕は、あの人はそこの店長だからね、と濁しておいた。とても彼女の前で、そこが風俗店だとは言えなかった。

 

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