久しぶりに顔を合わせて、再会を喜び合って、次に出てきた話題は、やっぱり音楽の話だった。お互いに、今でも楽器を続けている、というのが何よりの共通の話題だった。僕は路上で唄う機会を得ていたし、彼は風俗店の店長になっていて、店の女の子にピアノの弾き語りを聴かせているらしい。

話し込んでいると、もう一つの共通点が見えてきた。お互いに、明日の目標を、特に音楽で名を馳せようとか、そういうことに全く興味が無くなっている、ということだった。なんとなくの淡い希望は持っていても、かつてはもっと強く望んだであろう夢を、今は燻らせることで、曖昧に止めている。その加減が、不思議と心地よいのだ。

彼はしみじみと、僕に言った。

「店の女の子は、別に僕の歌なんか聴いてないし、ピアノの善し悪しなんて、わかっちゃくれないんだ。でも、店長またやっているの、なんて言いながらも、なんとなく聴いてくれているのが、堪らなく嬉しいんだよ

俺は究極、こうして女の子の前で、ピアノが弾けたらそれだけで良いんだよな」

全く同感だった。僕は今、一号と路上で唄っているのが、どこかで自分のベーシックになっている。お金にはならないし、続けたからといって、何かマジックが待っているわけではない。時々は、ファミレスで女の子に殴られたりもする。

でもそうやって、なんとなく、明日や、来週の予定に、音符のアイコンが浮いているだけで、安心するのだ。それでイイ、自分は何も間違ってはいないと、少なくともその刹那だけは、信じ込むことが出来る。

僕は自然と、そのアイコンを形作る素敵な天使、明日菜二号を持った彼女の話を、彼にした。彼は、良いねと言ってニヤリとして、それから僕との間で悪巧みを始めた。といっても、ただのセッションを画策しただけで、僕は彼女を連れだし、彼は、ベースとドラムをやっている兄弟を知っている、というので声をかけてくれる手はずになった。

その話を彼女にすると、二つ返事でOKだった。ただ、ちょうど中間テスト間近で、それが終わってから、という条件だけが付いた。それをクリヤするのに、何の障害もなかった。

 

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