六畳の部屋に、僕と彼女は向き合って座っていて、傍らにはデスクトップのパソコンが置かれてあった。モニターにはDAWソフトが立ち上がっていて、ピアノロールに隠れて五線譜も表示されていた。

僕はブルーのストラトを抱えていた。本体は一万ちょっとの安物だけど、ノイズが酷くてビル・ローレンスのピックアップに換えてある。それでも、ジージーいうノイズは残っている。自分で取り替えたので、配線が上手くないのかもしれない。

このギターはしばらく、目の前の彼女に貸していた。「明日菜二号」を買う前に、文化祭に出る彼女のために貸したきり、半分彼女のモノになっていた。僕自身、ギターの先生になる時以外で、エレキを弾くことはほとんど無くて、そのままでも特に不自由はしていなかった。

彼女が持っていたのは、これまた一万ちょっとの安物レスポール。彼女が抱えると、とても重そうに見えた。お尻の大きなギターは、華奢な体つきの彼女とはバランスが悪かったが、ブラック、という色が、今時珍しい長い黒髪にはマッチしていた。何を基準にしてそれを選んだのかはわからないが、そのレスポールはどこかで彼女に挑みかかっているような印象だった。

それをモノの見事にひれ伏させた後、ついに愛器として買ったのが「明日菜二号」だったのだけど、それはボディーが薄くて、更にアームユニットを埋め込んでるので、一層軽そうな音がしそうに見えた。でも実際音を出すと、変に腰がある。粘りのある音がして、サスティンはわずかにレスポールには劣るが、ピックアップをディマジオに換えると、遜色が無くなった。それどころか、透明で且つ芯の太い、いい音がするようになった。

彼女は一通りギターに慣れると、そこからはもう、他に目移りすることなくのめり込んだ。僕にすら、滅多に触らせてはくれないくらいだ。

きっと彼女は僕よりも物に執着する方なのかもしれない。物に執着するのは、一見粘着質でめんどくさそうに見えるが、それだけ愛情が深い現れでもある。若くて、まだ制服を着ている、見栄えのする女の子の愛情を、僕は無碍にするわけに行かなかった。

 

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