怪我をして初めての土曜日、僕は労災でしばらく自宅療養ということになっていて、彼女は久しぶりに逢う外の人間だった。怪我のことは事前に、写メール付きで、一応連絡しておいた。

いつも、彼女はソフトケースに入れたギターを担いで、電車で詫間の駅まで来る。いつもは家まで彼女の方が歩いてくるのだけど、僕はその日、退屈していたのもあって、彼女を駅まで迎えに行った。

改札を抜けた彼女は、僕の姿を見つけた。僕は敢えて、包帯を巻いた右手を挙げた。

彼女は普通の歩調で僕に近づくと、目の前に立ち止まった。ソフトケースを肩から落として、床に下ろす。

そして、まじまじと、僕の指を見つめた。僕は急に照れて、なにか言おうと言葉を探した。

それよりも早く、彼女は声を上げて泣き始めたのだ。改札のすぐこちらは待合い室になっていて、その時そこにいた数人が、彼女の泣き声に、一斉に注目した。

年端もいかない子供のように何度もしゃくり上げて、そのクリクリとした大きな瞳から涙をこぼした。

僕は何故か、何度も彼女に謝った。ごめん、ごめん、悪かったよ、と全く意識せずに謝っていた。

周囲の目からは、完全に僕が悪者になっていた。ただ、それは全くの間違いではないんだろうけれど、なんとなく理不尽にも思えた。

身近な人が怪我をする、ということが初体験だった、というのがその涙の理由の要約だけど、いくらかは、その動揺を、非難、という形で僕に向けたというのも、また正直な所なのだろう。

「せっかく、これから夏休みなのに」

と言いながら、彼女は、また道すがら、しゃくり上げ始めたのだった。

 

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