ちょうど簡易NCのチャックに、S45Cの径450の材料を取り付けている時だった。NCの脇の壁から伸びているクレーンにつり下げ、チャックにあてがって、軽く締め込んでから、ワイヤーを外す。その一瞬の隙に、部材は傾き、転げ落ちそうになった。

僕はとっさに手を伸ばし、それを押さえようとした。だが、片手で押さえられるほど、材料は軽くはなかった。そのままチャックを離れて、材料は落ちた。手で押さえたまま、だった。

普通なら、レールとレールの間に、切り子が落ちるように大きな隙間が空いていて、そこにゴロリと材料は落ちてゆく、はずだった。手をあてがっていても、いつかは材料だけこぼれ落ちて、大きな音を立てるだけだ。

だがその時は違っていた。

運悪く、としか言いようがない。転がりは思わぬ方向にわずかに方向を変え、レールの方に傾いていた。僕の手はそこに挟まれる格好になったのだった。

とっさに手を抜こうとしたが、間に合わなかった。小指だけが取り残され、僕はS45Cの全ての重みを、小指の先の一点で支えてしまった。

当然、小指の先に鈍い痛みが走った。それは、痛みと言うよりは痺れたような感覚で、軍手を外すまでは、ただ、挟まれただけ、としか思わなかった。

恐る恐る、軍手を引き抜いてみると、小指の先が半分無かった。皮一枚でかろうじて繋がっている、そんな感じだった。僕はそれ以上傷口を見ることも出来ず、油まみれの軍手を指に巻いて、師匠の所に助けを求めに行った。

それから、事務所の事務の女の子の運転する営業車で、近くの救急病院に駆け込んだ。そこで、一応、指を繋げては見た。だが、骨は砕け、ほぼ指先そのものがつぶれている状態で、元に戻る見込みはほとんど無い、と医者には言われた。

全治三ヶ月と診断した主治医の、最悪は指先が腐って落ちますね、の言葉通り、二度と指先は元に戻らなかった。

その包帯を巻いたまま、僕はギターを抱えていた。痛みはもう、ほとんど無かったが、痛みを感じる指先自体が、もう僕のものでは無くなっていた。

 

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