ちょうどお城祭りのステージに立って、そろそろ夏の祭りに向けて、動き始めようとした矢先に、僕は怪我をした。右手の小指に包帯を巻くハメになった。

包帯を取ると、僕の右手の小指は、第一関節から先が無くなっている。ついこの間までは、何とか繋がっていたが、ついに壊死して、切り取る手術を施した。

そもそも怪我をしたのは、仕事中の出来事だった。

僕が勤めている工場は、従業員が五十人にも満たない電気設備の会社だけど、現場に赴く仕事だけでなく、ちょっとした工作機械を設計して、その試作品を造ったり、本格的なラインを丸ごと設計、施工したりもしている。その為の旋盤やら、マシニングやらが事務所の横の工場で唸りを上げている。元々は、そっちの方がメインで、電設がメインになったのが、最近なのだ。

僕は普段、事務所の方でCADに向かって、電設の設計を主にやっている。だけど、時々工場に出る。それも決まって、師匠、と呼んでいる人の担当している機械の所に行く。

そこには、簡易NCと呼ばれる旋盤や、フライス盤があって、師匠が何人かの従業員を従えて工作機械の部品を作っている。機械を扱う仕事の基本的な作業が中心なので、新入社員はまずココに送られる。だから、新人教育もかねている部署なのだ。

僕も、中途採用だったけれど、まずは師匠の元で一から学んだ。事務所組、と呼ばれるCADとか設計とか、営業も含めて事務所に詰めることは決まっていたけれど、僕にはその肉体労働がなんとなく、性に合っていた。PCを扱うのにも興味があったので迷ったけれど、体を使って、設計図から立体を起こす作業で流す汗は、僕には何より、心地よく感じられたのだ。

だから、気分転換、というのも半分あって、工場が忙しくなると、すぐに手伝いに行った。そもそも設計の仕事は、立て込んでくると家に持ち帰ることもあるし、その為のラップトップも買ってある。別に仕事場に赴かなくても、何とかなるけれど、工場はそうはいかなかった。

師匠も僕をどこかで気に入ってくれたのか、忙しくなると指名して呼ぶようになっていて、その日も僕は呼ばれてそこに行ったのだ。

設計のついでに、NCのプログラムを書いたりもしているので、機械操作はわりと身近だった。情報交換の意味もあって、僕は嬉々として師匠の所に赴いた。

 

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