その一号とは、三人で今年の春に丸亀のお城祭りのステージに立った。一号自身が、どこからかその話を持ってきて、良い機会だから普段やっている僕ら二人に、彼女を加えたのだ。普段、僕と一号は、高松にあるスナックの客寄せに、瓦町の近くのアーケードの片隅で、金曜の夜に唄っている。

どうせお祭りだから、と僕は彼女を誘って、彼女はその為にアコースティック・ギターの練習に取り組んだ。ギターは一号が持っていたモーリスを借りた。いつも路上では、オリジナルを唄っているけれど、その時はビートルズのコピーを、一号のセレクトでやった。

一号の声は、美形の見た目と同じくらい、人の耳を魅了する。それは演奏をしている僕も同じで、一号の声がなければ、一号とずっと一緒には演っていない。そして、その日参加した彼女にも、したたか、ショックを与えたようだ。

「先生はいいよね。あれだけ歌える人がうちの高校にもいたらなぁ」

頬をふくらませて愚痴を言う彼女の表情は、どこか幼い印象を受ける。柔らかそうな丸い頬が、その印象を一層、際だたせている。

 

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