その彼氏も二年ほど前には、僕の目の前で同じようにギターを弾いていた。彼女も、その彼氏も、土曜になると僕の部屋にギターを習いに来ていた。

元々、中学三年の時に、彼女がギターを買って、教えてくれる人を捜していた。彼女の兄が通っていた大学の同級生が、僕が一緒に路上で演奏している男の彼女だった。その繋がりで、僕の所に話がやってきて、それほど上手くないけれど、と一応注釈を付けて引き受けたのだった。それから毎週土曜日の午後は、彼女のギターレッスンのスケジュールが入るようになった。

それは彼女の高校受験の一時期をのぞいて、ほぼ毎週続けられていた。

彼女が高校に上がって、すぐに同級生の彼氏が出来た。彼女の紹介によると、手先が器用で、普段はプラモデルを作ったり、美術部に所属して絵を描いたりしているらしい。二人は美術の選択授業で一緒になったのがきっかけで、付き合うようになった、と言っていた。普段は本ばかり読んでいて、そういう意味ではずいぶんと不釣り合いな二人に見えた。

その彼氏も一緒にギターを習い始めたのだ。彼女が半ば強引に引き込んだ、と言うのが本当のところだけど、彼は手先が起用なだけでなく、耳も良かった。楽典的な音のセンスよりも、響きそのものを見分ける能力が備わっていた。

関係ないかもしれないけれど、と彼は前置きをして、それは祖父が木工の職人で、木材の善し悪しを見分ける術として、コンコンと叩いて音を聴くのを見て育ったから鍛えられたのかな、ということらしい。物を一から作るのが楽しいんですよ、と彼は言った。

慣れるにしろ、教えてもらうにしろ、響きを見極めるのは充分に有能なセンスには違いなかった。

でも、彼はなかなか上達しなかった。一方の彼女の方が、もう中学の一年間で、ほとんど基礎的なことを習得して、驚くほどの上達ぶりを見せていたので、そのギャップが際だっていたのもあった。隣で、小難しいフレーズを難なくこなす彼女を見て、まだスケール練習でモタついている姿は、傍目で見ていても、どこかコンプレックスの存在を滲ませていた。

もう少しがんばれば、きっと彼女と一緒に演奏できるようになるよ、と僕は説得したけれど、しばらくして彼の方からレッスンを辞退した。そしてまた、僕と彼女のマン・ツーマンのレッスンに戻った。

 

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