忙しい指はギターの指盤の上で踊る。ローズウッドの指盤の上で、細い指が柔らかく踊る。細かく跳ねながらバラバラに動いているようで、一瞬掌全体が一点に力を集中させる。

それの結果が僕の耳に届く。SONYの密閉型のヘッドフォンを通して、歪んだギターの音が音程をスイープさせて上がっていき、シグナルが頂点に立ち止まった所でゆらゆらとビブラートする。その揺れ方に、僕は惚れ惚れする。

聴き惚れていると、また忙しく指が動き始め、ほぼ同じところで立ち止まる。

そして、またあの表情。

あー、もう、とついに言葉になった。僕は静かにパソコンにキーの叩く。すると、ヘッドフォンからの音が静かになる。ジー、と小さなノイズを立てているのは、きっと僕が抱えているストラトのせいだろう。

「ココがどうしてもうまくいかない」

艶のある声だ。歪んだギターの音は何処までも甘いけれど、その音を奏でる張本人の声は、もう少し透明感に満ちている。其処に艶っぽさを感じるのは、誰しもが目を惹かれる厚ぼったい唇の印象からかもしれない。薄いピンク色のリップが、ほんの僅かに潤んで見えた。

その唇をギュウ、っと噛みしめると、奏者はまた何度も蹴躓く場所を、行ったり来たりしてみせる。歪んだギターは、ハムバッキング独特の腰のある音をしている。きっとピックアップだけでなく、ボディもかなり良い響きを持っているに違いない。そのギターの音を初めて聴かせてもらった時に、僕がそのことを指摘すると、彼氏が選んでくれたんだ、と彼女は嬉しそうに言った。

 

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