ただ、三十二度を超えたら冷房使用OKにも、例外は存在している。敢えて、妹が認めた例外がある。

その例外が、今僕の目の前で眉間に皺を寄せて、難しい顔をしている。頬がわずかに紅潮して、長い髪を後ろで纏めているせいですっかり露わになっている、綺麗に丸い額にはうっすらと汗が浮いている。口をへの字に曲げて、視線は手元を見つめている。

例外はどんな世の中でもいつも人間と決まっている。お客さんが来たら、おもてなしの代わりに冷房を点けるのだ。

しかもそれが、女性客となると、妹に土下座してでも僕は冷房を点けるだろう。

更に、その女性が現役高校生で、しかも制服姿でやってくるのだから、僕としてはなりふり構っていられないのだ。

その現役女子高生の手の指はさっきから同じ所を行ったり来たり、行ったり来たり、残像が見えそうなほどに細かく忙しく蠢いている。それがいつも同じところで、パッと止まる。なにかに蹴躓いたように、指先の動きが止まる。

止まると決まって、視線が僕の方を向く。曇りのないまん丸の瞳が僕を見つめるのだ。そして難しい顔に困った表情を滲ませるのだ。僕も同じ表情をして見返すと、諦めたように俯いて、やがてまた指が忙しく動き出す。

 

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