また、夢を見て起きた。

起きたらまた、見ていたはずのDVDは終わっていて、テレビの電源も落とされていた。小さな明かりが一つ点いた部屋の底で、ソファに寝そべっている。デジャブみたいに、私は二日前に連れ戻されたような、奇妙な感覚が頭を覆っていた。

ああ、そういえば、あの日誰がテレビの電源を消して、私にタオルケットを掛けたのか、訊くのを忘れていた。そんなことを考えていると、次第に意識が覚醒していった。

起きあがって、ひどく体が重いことに気づく。ぼんやりとした疲労が身体の芯にまとわりついていて、目の奥が痛む。風邪でも引いたのかな、と思う。体調管理は、いつも気を遣っているはずなのに、なんだか途端にどうでも良くなった気がして、少なくともここに来て以来、適当にやり過ごしていた。お腹が空いたら遠慮なく云って、奥さんになにか用意してもらって、ソファに寝そべってテレビを見て、ついでに眠って、また起きて、退屈になったらクッキーを焼いて。

自堕落、というよりは、わがまま。ただ、そういう振る舞いが、変に心地よかった。

私はテーブルの上を探って、テレビのリモコンを探した。DVDのパッケージを避けると、飲みかけのソーダ水がグラスに半分ぐらい残っていた。それを飲み干して、ようやくリモコンを見つけた。

電源を入れて、音量を絞った。DVDから衛星放送に変える。海外のニュースをやっていて、鮮やかで明るい色の明滅が、眩しくて仕方なかった。

その時、不意に窓の外が光ったのが見えた。しばらく、ぼんやり見ていると、カーテンの隙間が白く輝く。一瞬にして光は途絶え、やがてゴロゴロと空気を低く震わせる音が聞こえた。

屋上から引き上げてすぐ、かなり激しい雨が降り出した。強い風が窓を叩いて、さっきまでの夕焼けが一瞬にして夜に墜ちた。部屋の中の電灯を点けると、部屋を照らす照明がやけに眩しく感じた。ちょうど今のテレビみたいに。

そのまままたゴロン、とソファに横になる。Tシャツの中に手を差し入れて、ブラジャーのホックを外して、片方ずつ腕を抜いて、袖から取り出した。くしゃくしゃに丸めて、スウェットのズボンのポケットに押し込んだ。

シャワーを浴びたいと思うけれど、まだ誰も起きていない内から、バスルームを使うのは気が引けた。こういう時ぐらい、またタイミング良く、奥さんが現れないだろうか、としばらく待ってみる。

本当をいうとまだ、奥さんには慣れないな。憧れて近づこうと思うけれど、どこか、壁のような違和感が拭えない。反発するわけでもないのに、どうしてもある一点から先に進めない。

同じ女だから、そう感じるのだろうか?そもそも、その違和感はいったいなんだろう?

屋上から戻って、主の顔を見た奥さんは、どうしたのそのほっぺた、といってもう半分笑っていた。主は殴られた、と一言だけ、今まで聞いたこともないほど無愛想な口調で応えると、あなたまた、変なコトしようとしたんじゃない、と冗談めかして云ったけれど、私は奥さんが「また」と云ったのが引っかかった。

それから私が、丁寧に、事情を説明した。なぜか、私は自分の思いまでも、ちゃんとそこで奥さんに話した。殴った本人、主にも云わなかった、自分の気持ちを吐露した。きっとそれは、奥さんに説明したんではなく、主に言い訳をし、自分で自分の気持ちの在処を確認したんだ。

 

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