「私、振られて、干されて、飛ばされた、ってなんかひどくない?」

私だけ、と付け加える。

「お前だけ大損したワケじゃないよ」

「でも、理不尽だと思わない?」

そういうもんだよ、諦めろよ、とまだ主は笑いが収まらないらしい。だんだん私は、そんな主の姿にむかついてくる。

その時、ぽつり、と頬を雨粒が打った。反射的に、上を向く。黒い雲が、ずいぶん空の低い所を通り過ぎようとしていた。

「マンションから出られないまま東京へ返すのも悪いと思ったけど、ここが限界だ。そろそろ雨が降る、帰ろう」

主はそう云ってきびすを返した。スタスタと、足早にさっきの鉄の扉まで歩き出した。

「ちょっと待って」

「雨降ってくるぞ」

顔だけこっちに向けて、主はめんどくさそうに云った。

「だからちょっと待ってよ」

なんだよ、と急に悪態を突く。

「やっぱりこのままじゃ理不尽だ。振られて、干されて、飛ばされるのは理不尽だ」

「だから、お前に男を見る目が・・・」

その言葉を遮る。

 

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