「私、やっぱり泣いた方が良かったのかな?」

そっちの方が安心した?といいながら、主の隣に立つ。私も同じように片手で金網を掴んで、背筋を伸ばす。さっきの続きで、片膝を腰の高さまで持ち上げる。

「イヤ、泣きたくないなら、泣かなくていい。そういう、誤解というか、先入観みたいなものを、持っている自分、それとのギャップかな。本当はきっと、例えば三日間ずっと泣き続けられても困っただろうし」

膝を元に戻して、背筋を伸ばしたまま、九十度身体を回転させる。金網の向こうを見る。夕焼けの空、雲の様子は、絶えず動いているのに、俯瞰で観た見た目は全く変わらない。

「本当に、泣く時期は過ぎたって思ってて、泣けば結構楽になるかな、と思ったんだけど、泣けなかったんだ。これは本当、期待はずれかもしれないけど、本音。もっと云うとね、今回の騒動も、仕方がない、っていうか、非道い話だとは思うけど、まぁ、半分種をまいたのは自分だしね」

フフフ、と私は声を出して笑った。訝しそうに、主は私を見下ろした。

「笑った方が勝ち?それは思った。どっちみち、責任は取らないといけないんだろうし、泣いてても状況変わらないし。だったら早い内に笑えるなら、笑った方がいい、とは思った。だから、ちょっとした休みが来た、ぐらいにしか、思ってないんだよ。本当は休みたくないんだけど、仕方がないよ、休まないと、って感じ」

ニュアンス、伝わる?と訊くと、なんとなく、と主は応えた。お互い様、と返すと、主は苦笑した。

 

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