処遇が決まると、途端に落ち着かなくなった。今すぐにでも東京に帰って、今度は新たな場所への準備を始めたい。しかし、日曜になるまで戻ることは事務所からは許されていない。今、マスコミとの最終調整をしている所で、不用意にウロチョロするな、ということを強く云われていた。

そのギャップで、イライラがまた頭をもたげ始めたけれど、前ほど切実には思えなかった。コントロールは出来る自信がある。

結局、一日また本を読んだ。残りの一冊は、女優と日本海を旅する、という話で、途中で河合屋のリンゴが出てきた。私はまた無性に食べたくなって、奥さんを捜してリクエストした。それは昼食のデザートに出た。

話自体、それほどおもしろくなかったので、どんどん読み飛ばして夕方には最後のページをめくった。感想もなにもない。

ただ、気分転換に、部屋を出てリビングに行くと、主はソファに寝そべってテレビを見ていた。深海生物の生態を追ったドキュメンタリーをやっていた。カニの脱皮とか、ヒトデの食事とか、イカの交尾とか、そういう映像が続いていた。

見ながら、つい、なにかコメントを探してしまう。テレビに毒されている、みたいに主は云うのかもしれないけれど、なんとなく職業病だな、とは思う。映画もドラマもバラエティー番組も、全部単純には楽しめない。それは、主の云っているのとはまた別の意味で、テレビに辟易する瞬間だ。

 

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