「まぁ、東京に通えないワケじゃないし」

私のその言葉は、自分に言い聞かせるための言い訳に聞こえた。

「俺はそういうの、嫌いだな。それよりはもっと、福岡なら福岡で、一番になることを考えた方がいいんじゃないか」

それはそうだけど、とまた私は、無意識に口を尖らせていた。

「俺も東京で仕事はしているけど、やっぱり住み慣れたここに帰ってきてしまう。ここに家もあるし、友達だっている。ギター教室の生徒だって、長く付き合っていると、忘れられなくなるモノだ。昔は都会に出たくて仕方がなかったけど、今は全く逆になっている」

自嘲気味に主は苦笑する。

「それに、東京でなにかを造って、そこから全国に拡げていく、というようなスタイルには、もう軋みが来ているような気がするんだ。世の中の流れも、それに敏感で、ずいぶんと意識的に変わってきているような気がする」

私は、最近よく見る弁護士出身の市長さんだか、知事さんだかの顔を思い浮かべた。ちょうどつい最近出た番組で、その話をしていたのを偶然覚えていた。

「地方に住んでいるとよくわかるんだ。渦の中心にいると、そのうち翻弄されていることに鈍感になるけど、一歩離れてみていると、ずいぶんと滑稽だな、という視線で見ていられる、ってこともあるんだ。地方でも、東京を頂点にしたヒエラルキーで存在しているモノは、だんだん衰退してきている」

主は目の前に手で三角を作って見せた。

 

前へ

次へ