東京に出てきた日のことを良く覚えている。父さんは怒ったままで見送りにも来ず、私はなんのセレモニーもなく母さんと新幹線に乗って、東京駅に着いた。雑踏を抜けて、外に出ると、空には雲一つなく、真っ青な、何処までも青い空が一面に広がっていた。

いい天気だね、と母さんは云って、幸先いいんじゃない?と付け加えた。しっかりしなさい、と云われて、初めて、自分が緊張に顔をこわばらせているのに気が付いた。青い空を綺麗と感じても、それを素直に顔に出せないほど、私は緊張していたのだ。

思うと、今でもその時の緊張は消えていないような気がする。

東京には慣れた。でも、緊張はずっと続いている。神経が休まる時がない。ずっとなにかをしている。

時々、舞台が終わって電車でマンションまで帰る時に、フッと息を吐いて肩の荷を下ろすような瞬間、自分の鼓動が結構な早さでずっと、ドキドキし続けているのに気づく。リラックスしているつもりなのに、身体がいうことを効かない。ずっと神経を張りつめさせている方が、安心していられるような気さえする。

福岡は、実家に近い。昔の友達が見にくれるかな、なんていう悠長なことはあまり考えられない。それよりも、勇んで出かけて数年経って、すごすごと帰ってきてしまうような、そんな情けなさの方が優先していた。

都落ち、という言葉がフッと頭をよぎった。ああ、これは事態処理というよりは、処分、罰、だな、と思った。

 

前へ

次へ