そもそも、主はこの部屋を私の監禁場所にするつもりだったのだ。でも、あんなに大きな窓、簡単に登ってそのまま飛び上がれば、簡単に主の心配は現実になる。それとも、ここでひとり、めそめそ泣いているのをドアの前で静かに見守っているとか、そういうことを考えていたのだろうか?

いずれにしろ、浅はかだ。大人って、その程度の想像で動いているのだろうか?

そういえば、奥さんは一応主からなにか訊いているだろうに、さっき、ちらっと覗いただけで、いいのよ、とだけ云って出ていった。夫婦に気にはされているようだ。でも、気にしているだけ、な気もした。

気にされている、ということをなんとなく実感できるのは、きっと悪くない。監視されたり、それこそ監禁されたり、というのはごめんだけど、気にされている、と私が思えるのは、安心を呼び起こす。

そして、気にかけてくれている人たちを、裏切るのは忍びない。

ああ、それが寄り添う、っていうことなんだろうな、と私は思った。

誰かが、人が出来る最低の仕打ちは、忘れることだ、といっていたのを思い出した。誰が云っていたのか、何処で云っていたのか忘れたけれど、それを訊いた時に、もっとひどいことがあるだろう、と思ったけれど、それは今になってやっとわかる。

じゃあバイバイ、って感じで、こんなスキャンダルの中で、突き放された人たちもたくさん居た。それよりはまだ、ちょっとはマシなのかな、と思う。

私はまたゴロリと横になった。そのままの勢いで、仰向けになって、テーブルの上の残りの二冊を手に取った。二冊並べて、難しそうなモノを選んだ。時間がかかるモノ、出来れば、そのまま眠りにつけるモノ。

私は題名に漢字の多い方を手にして、もう一冊をテーブルに戻した。パラパラとめくってみると、所々に挿絵が載っていてホッとする。ただ、それは挿絵というよりは、ずっと直線的で数字が一緒に書き込まれている「図」だった。

とりあえず、眠るため、に方向転換して、私は文字を追い始めた。

 

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