「なかなか衝撃的だっただろ?」

「他にはないの?」

「ネットに上がっているのはこれだけだ。大学時代の映像を、その頃の後輩がおもしろがって上げたんだ。もちろん、嫁には一言、断ってだけど」

ということは、一応、私とは違って、納得済みでネットに上がっている、ってことなのだろう。隠すつもりは、そうないのかもしれない。

「さっき黒歴史、って云ったけど、今でも時々、この部屋で二人して、おもしろがって見返したりするんだ。他人にはあまり見せたがらないけど、ネットで上がっているんだからな。本当は、このあとの方がずっと大変だったしな。これは、まぁ、恥ずかしいと、恥ずかしくないのぎりぎり、懐かしいイイ思い出だよ」

主はそういうと、椅子から立ち上がった。入れ替わりに私を座らせる。

私はもう一度、繰り返しのボタンをクリックする。程なく、あの声が、また聴こえ始める。一度聴くと慣れるけれど、それでも事実は、なかなか衝撃的だ。

ああ、私の記事も、こんな風に大半の人間はおもしろがって見ているんだろうな、と思った。いい加減なモノだ、と思う。自分だって、他人の過去のあら探しに、夢中になっている。

「あいつは、このあと人前に出る仕事で、アナウンサーを選んだんだけど、そうなるとこの歌みたいな声がネックになってきたんだ。こうやって喉を酷使したために、すぐに痛めて涸れてしまうんだ。声の張りと滑舌とかは、鍛えられていたんだけど、とにかくメンテナンスが大変だったんだ」

努力したんだよ、と主は付け加える。

「だけど、この時代を恥ずかしいとは思っていても、そういうことは誰にだって一つや二つはあるモノで、でも、こういう時代があったからこそ今がある、というのも、また事実なんだ」

主は本棚の隅に並んでいるCDの中から、何枚かをピックアップして、デスクの上に置いた。

「今でも、こんなの聴いているんだぜ」

どのジャケットにも殺伐としたフォントの文字が踊っている。血を飛び散らせたようなデザインや、ホラー映画に出てきそうなキャラクターが描かれていた。音を聴かなくても、だいたいどんな音が流れ、どんな気分になるか、簡単に想像がつく。

「実をいうと、こんなヘヴィな音楽を聴いたのは久しぶりなんだ。俺は単純に、こういうヘヴィなギターを弾いているのがおもしろくて聴いていたんだけど、あいつはちょっと違っていて、もっと鬱屈した気分を抱えていたが故に、ヘヴィな音に出会ったって感じだったんだ。

聴いているだけじゃなく、それを唄うことによって、まぁ、そういう胸をかきむしるような思いっていうのは、ある程度昇華できたんだけど、だから、今のあいつがあるって感じなんだ」

奥さんの胸にたまっていた何物かの詳細を、私は訊きたいと思ったけれど、それはきっと訊くべきことではないのだろうと思う。それに、主に訊いても絶対に云わないだろう。

「だけど、去年、原発の事故以降、なにかひどく重たい空気に包まれて、原因といえばきっと放射能のことが気になる、ってことなんだろうけど、それだけではない、なにかがわからなくて、よけいにヘヴィになっているような気がしたんだ」

そういう話を、時々俺たちはするんだよ、と付け足して、主は話を続けた。

 

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