「それはさておき、今回のことも、似たようなもんだろ?雑誌かネットかだけの違いで、それほど変わらないんじゃないか、と思うんだけど」

「でも、それって、今回のあの記事を、認めることにならない?裁判とかで証言とか、そういう所訊かれるんじゃないの?」

「それがそうでもないんだ。俺は欠かさず裁判の傍聴行ったし、少しは調べもした。それによると、記事が事実かどうかは関係ないんだ。民事の損害賠償なら、本当のことを広めて何が悪い、って相手は云うんだろうけど、刑事事件の場合は、そこは論点にならないんだ。つまりは、訴えたお前が知られたくないことを知らされた、というか、なんの承諾もなしに、不特定多数の人に、自分の秘密をばらされた、その行為の方が問題になる。だから、その記事が事実かどうかは問題じゃなくて、おおざっぱに云えば、お前が嫌がることを故意にやった、ということのみが争われるんだよ」

主は手振りを交えて解説した。主の云いたいことはよくわかる。だけど、裁判とか、警察とか、生々しすぎて、ひどくイヤな気がした。騒動がなにか、血なまぐさい事件になってしまうのには、どこか違和感があった。

「それで、どうなるの?」

「わからない。司法がどう判断するかは、俺にもわからないけど、一度相談してみる価値はあるんじゃないかと思うんだ。損害賠償、というのは、まぁ、勝てばお金になるけど、お前はそういうのは、求めてないだろ?だったら、お金は入らないけど、罰を与えることが出来る。お前にはそっちの方がしっくり行くんじゃないか?」

警察に訴えて、裁判をして、実刑になるということが、罰になるというのは、頭ではわかるけれど、なにか実感が希薄だった。それよりはずっと、ソンガイバイショー、という響きの方が現実味があるけれど、確かにそうやってお金で解決するのは、主が云うように気が進まなかった。

もっとしなやかに、このくだらない騒動を、受け止めて、受け流すことは出来ないんだろうか?

「まぁ、どっちみち、事務所の判断なんだろうけど」

そう主が云うと、私との間に長い沈黙が生まれた。風が澱んだような、重苦しい空気が胸を押した。

やがて、耐えきれなくなったように、沈黙は主の声でたちまち霧消する。これは勝手な俺の意見だけど、とさっきよりは何重も、トーンが落ちる。

「俺は、お前が願う結末というか、後始末になればいいと思う。それは多分、今すぐはわからないだろうから、じっくり考えればいいよ。まだ少し、時間はあるだろうから」

それはきっと、はかない希望なんだろうな、と思うけれど、今はそう思ってくれる人がいるだけで、少し気分は晴れた。そういうことの積み重ねなんだろうな、となんとなく思う。

 

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