最初の顔合わせで冴えない印象だった主と、私が打ち解けたのは、最初はアニメの話だった。曲を作る打ち合わせで、キーワードになる言葉を模索していて、私たちは何気ない会話を重ねることの中でそれを探していた。

全く音楽とは関係のない場所で、例えば食事をしながらとか、高級ホテルのカフェ・ラウンジとかで、普段の生活のことや、日常の中でのハプニングとか、そういう話を糸口に会話をしていたけれど、なかなか接点が見つからなかった。仕事然としたやり方で、曲を作って売り出して、というのは簡単だったけれど、そうはしたくない、というのがお互いの共通の思いだった。だから、なるべく自分の思いが投影できるように、模索を続けた。

その突破口が、アニメだった。偶々、テレビで一挙放送、という感じで放映されてた「攻殻機動隊」を見た、という話が端緒だった。私にはストーリーが複雑すぎてわからない、というと、主は身を乗り出して、それから事細かに説明をし始めた。

「それほどアニメに詳しいワケじゃないけど、あれは本当におもしろい作りをしているから好きなんだ」

そこで、女性の主人公、少佐と呼ばれる草薙素子の話を始めた。

「原作もそうだけど、彼女の顔の作りは、美人、という感じじゃなくて、どっちかというといわゆる萌えに近い、カワイイ顔をしているだろ?だけど、誰も少佐を見てカワイイ、という感想は持たない。やっぱり綺麗だな、美しいな、と憧れる。

それは、造形じゃなく、仕草なんだよ。立ち姿、立ち居振る舞いが、美しいんだよ。そういう見せ方が、意外に共感を呼ぶんだよ。そして、重層的に逃げ道を用意していて話を破綻させないんだよな」

話の内容はともかく、そこまで入れ込む姿が、私の共感を呼んだのだ。体育会系は、行いですべてを把握するけれど、文系は言葉で物事をすべて乗り切ろうとする。私は肉体の動く様を美しいとも感じるけれど、言葉の響きの美しさに惹かれる。音楽的な、グルーブがそれに加わっていれば、輝きを増すことを皮膚感覚で知っていた。

次のミーティングの時、私は自分から「攻殻機動隊」の話を持ち出した。見たよ、という所から、その日、主と私は短いけれど熱のこもった議論に花を咲かせた。私はキャラクターの細かい設定にこだわる方で、久しぶりに自分の思いを発散した。

それは後日、ずいぶんとマニアック、とスタッフから感想の漏れた何曲かのデモ・ソングと、お互いに馴れ馴れしい口調で会話することをもたらした。

そうやって、やっとアタシにも、舞台の中央に躍り出る芽が出てきたのかな、と思い始めることが出来た、その矢先の騒動だった。

いいことばかりは続かない、と私は思ったのだった。

 

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