トイレから戻るついでに、やっぱりスマートフォンをバッグの中から引っ張り出した。充電器と一緒にリビングに戻る。

電源を入れると、着信があったことを告げるチャイムが鳴った。うんざりする。

ざっと一覧を見て、ほとんどが見知らぬ電話番号の羅列、住所録に存在しない物ばかりだった。

事務所からも何件かあったけれど、そちらの連絡は直接この部屋に届くことになっていて、ある時間からはぱったりと途絶えていた。

そして、実家からの着信が何件か、今一番、声を聞きたくない相手だと思った。きっと父さんは怒っているだろうな、と思った。私が東京に出ることを一番最後まで反対していた。それに、雑誌で明らかになった事実や、公開された写メールは、父さんには一番見られたくない物だった。きっと電話をしてきたのは母さんだろうけど、父さんとは話せない。向こうもきっと、話したくないだろうと思う。

気を取り直して、メールを開くと、意外に件数は少なかった。メンバーから、数件あるのと、あとは馴染みのスタッフから。仕事以外の友人からも数件。

仕事以外の友人は、中学の時の地元の同級生だけで、もうずいぶんと疎遠になってしまっている。久しぶりに見える名前もあった。

九州にある地元の友達は、今頃何をしているのだろうか?ほとんどが大学に進んで、地元を離れているのかもしれない。同窓会とかやると、どういうことになるんだろう。もしかしたら、その中だけでは、私は主役になれるかもしれない、そんなことを思う。

選抜の主要メンバーからは全く何もなかった。メールを送ってきたのは、一緒に二軍でレッスンを受けている仲間からだけで、それも数えるほどだった。

それぞれを開いてみると、一様に心配している様子をつづっていた。ただ、その言葉の端々に、戸惑いも見える。おそらく、心配する前に、騒動の真相を知りたいのだろうな、と思った。詰まる所、あの記事は本当かどうか、が知りたいはずだ。

あの彼氏とは付き合っていたのかどうか、とかそういうこと。それを知ったら反応は変わるのだろうか?

心配するのと同時に、火の粉がかからないように防御を巡らすのではないだろうか。私たちは仲間であるのと同時に、ライバルでもある。表舞台の中心に出るのは一握りで、誰もがその小さな椅子を奪い合っている。

奪い合うことに関しての連帯感はある。ただ、チャンスを狙っているのも一緒で、その辺は自分も含めて抜け目無い。

こういうトラブルの時に、そういう周囲に気づかされること、そしてその中の自分も一人であることを思い知らされるのが、一番キツイかもしれない。羊の群が、急に野生の牙をむき出しにするような瞬間。弱っている時に、そういう所を目の当たりにするのは、相当堪える。

素直に信じられない自分が悪いのかもしれない。ただ、もし逆の立場だったら、と考えると、果たしてその思いを覆すほどの自信を持ち合わせているのか、心許ない。

 

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