この騒動のそもそもの発端、彼と付き合っている間は、普通に街を歩いても誰も見向きもしなかった。自分も、それを意識していたことはない。何処にでもいるカップルは、本当に街のあちこちに何処にでも居て、私たちはその中のほんのひと組に過ぎなかった。

別れてから、忙しくなっても、注目を浴びるのは選抜されたメンバーばかりだった。私は、箸休めみたいな存在で、十把一纏めで集められて観葉植物みたいにそこに置かれるだけの存在だった。

その中から這い上がること、注目を浴びる存在になることを夢見てはいたけれど、実際にそれが今、現実の物になっているとは思わなかった。きっと、ここから見える町に住む人の中で、私の名前を覚えている人は、ほとんど居ないんだろうと思う。

だけど、ひとたび、騒動が持ち上がると、急に私は注目を浴びた。これまでの画面の隅にいたのが、急に真ん中に押しやられたような、そんな感じだった。歓声は聞こえなかったかわりに、取材申し込みや、個人的に話を聞きたいという、いつか取材で逢った人たちからの着信が、ひっきりなしに鳴った。

そういえば、それに辟易してスマートフォンの電源を切ってから、全然触ってないことに気づく。丸一日近く、スマートフォンを触っていないなんて、中学生の時にケータイを買ってもらってから、初めてかもしれなかった。やっと最近、ケータイからスマートフォンに換えたばかりなのに、もったいないと思う。

ただ、なんとなく、まだスマートフォンの電源を再び入れる気にはならなかった。どうせ、着信履歴も、メールの着信も、昨日のけたたましさを残したまんまだろう。本当に売れているメンバーは、プライベートと、仕事用に二つのケータイを与えられていて、こういう時、仕事用を切っても普通に連絡を取り合うことが出来た。

私はまだ、そんな扱いは受けていないから、スマートフォンを見て、選別する必要がある。一つ一つ、確認するのがひどく億劫に思えた。

 

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