ぐずぐずと私はソファの上で丸まったまま、モゾモゾと全身をくねらせた。汗で張り付いた薄いシャツの生地が、こすれて気持ちが悪い。シャワーを浴びたいと思う。 その時、背中の方がパッと明るくなった。顔を伏せたまま、その明かりの存在だけを感じる。 「あら、起きたの?」 その小さな音量の声は、掠れていた。声の後にあくびをする音。 私は顔を上げる。 その人と目があった。その人は、この部屋の主の奥さんで、私よりもずっと年上だけど、小顔に短めの髪型が似合っていて、かわいい印象を保っている。私よりもずっと、幼い顔立ちをしている。でも、身のこなしはもう大人で、指先とか、ちょっとした仕草とかに三十代後半の年相応の年期を感じる。 顔立ちは遠く及ばないけれど、いつかはあんな雰囲気を醸し出せるほどの、立ち居振る舞いは何とか、身につけたいな、と思う。昨日初めてあってから、ずっとそんな風に思っている。 それほどに、あこがれを感じさせる人でも、今の私は、素直に振る舞えない。 「シャワーを浴びたい」 突き放すように、ポンッ、と言葉を吐き出す。言葉に形があれば、きっと投げつけていたに違いない。 「お湯、張ったままだから、そのまま入れるわよ」 キッチンの蛍光灯を点けながら、その人は云った。 「イヤだ、シャワーがイイ」 そう、とその人は薄く笑って、壁のスイッチに触れた。ゴゴッ、とボイラーのスイッチが入る音がする。なんだか急に、辺りが騒がしくなった気がして、私は萎縮する。 「なにか飲む?」 私は首を振る。濡れた毛先が、絡んだまま私の頬を打つ。 「のど乾いたら、勝手に冷蔵庫開けて飲んでかまわないから」 そう云うと、その人はキッチンから離れた。そのまま、廊下を向こうに行ってしまう。せっかくなら、私のいる部屋の電気を点けて欲しかった、と思う。キッチンの明かりはそのままだったので、壁のスイッチは容易に見つかるだろうけど、自分で押す、という行為がひどく恨めしかった。 私はそのまま、ソファに転がった。濡れたクッションの肌触りは最悪だった。 ああもうっ、と思わず口をついて出た。 その言葉に蹴飛ばされるように、私は立ち上がって、すたすたと歩き始めた。 |