暗がりの中で、ブン、と冷蔵庫のうなりが聞こえた。耳を澄ませると、バイクの音が聞こえる。エンジン音よりも、ガチャガチャ云う音。それが何をしているのかわからないけれど、新聞配達のバイクは、いつもそんな音がする。

私は膝を抱える。小さく背中を丸めて、顔を埋める。

イヤだ、と小さく呟く。

何がイヤなのか、はっきりとはわかっているようでわかっていない。この部屋がイヤなのではない。ここに来たいきさつがイヤなのではない。今の生活がイヤなのではない。それが壊れそうなのがイヤなのではない。何とかなるだろうけれど、わずかな時間、雌伏する時間がイヤなのではない。全部が全部、イヤなのではない。

だったら何が、イヤなのか?それがわからないけれど、でも、イヤなのだ。

死んじゃおっかな。

今度は声に出さずに、口だけ動かす。死んで伝説になろうかな、みたいな。全然本気じゃないな、と思う。

ただ、ひどく悲しい。悲しい気がする。こういう時は悲しい、と思うのが普通なのだろうと思う。

それもよくわからない。

きっとなにか大きな歯車の、軋む音がうるさいだけなのだろう。壊れたのだから直せばいい。だけど、その徒労に辟易するのだ。その時間を、ひどく無駄に感じるのだ。

だから、何もかも、イヤになるのだ。イヤなんだと思う軋みが、私の中に刻まれるのだ。

 

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