ついさっき、見た夢もきっとそれだったのだろう、と思うし、目が覚めた時に、私はずいぶんと呼吸が荒くなっていた。だけど、実際にはよく覚えていなかった。怖い夢を見た、という事実だけが頭に残っていた。

怖さにあらがうように、全身が汗ばむと同時に、ひどく疲れていた。何がどう、何処がどう、というのはわからないけれど、全身が重い。皮膚の細胞の一つ一つに、おもりをつり下げられたように、床に押しつけられそうなほど、倦怠感がのしかかっていた。

このところ、休みらしい休みなんて無かったから、と思って、でも、休みが欲しかったわけでもない、と思う。それにちゃんとした休みなら、自分の思う場所で、ゆっくり休みたい、と思う。

暗がりではっきりとは見えないけれど、ここは自分の自由になる場所ではない。私はここに逃げ込んだ、というよりここに隠されたのだ。見るモノすべてが、初めて見るのに近い印象で、ソファもテレビも、自分の家にあるモノよりずっと、大きかった。質はどうかわからないけれど、形はずっと大きかった。

ここにはほんのりと、家族の匂いが立ちこめていた。独り者の部屋にない香りを放つアイテムがそこここに転がっていた。

それだけで、私の居心地はねじ曲がる。

仕方がないか、と思うには、全然心の準備が整っていない。納得していない。

それに、今沈黙は最大の敵だ。静かなのは、苦手だ。気が滅入る。

だけど、テレビを再び点けるとか、部屋の電気を付けるとか、そういう決断がなかなか出来なかった。点ければ、この部屋の本来の住人を起こすことになるかもしれないし、だいいち、すんなりとテレビを点けたり部屋の電灯のスイッチにまっすぐ向かったり、というほどに、この部屋には慣れていないのだ。

何しろ、昨日の朝、初めてこの部屋に来たばかりなのだ。

 

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