ありふれたサイズのポスターを一枚取って眺めて、ヨシタカ君は、誰ですかこれ、とポスターの真ん中に映っている女性を指さした。

「大沼の姉ちゃんだよ」

三好さんがそう云ったのを、僕は妹ですよ、と訂正する。すると、妹さんですか?とヨシタカ君はくりかえし、随分歳が離れた、と言いかけてその偉容さに口をつぐんだ。

俺と二つしか違わないよ、と僕が言うと、そうですよね、逢ったことありますよね、と彼は訝しそうな表情でもう一度ポスターを見つめた。

彼の表情も致し方ない。そのポスターには、セーラー服姿の妹が映っていた。

妹は、僕の愛車の天井に上って、黒のレスポールを抱え、人差し指を立てた右手を高く掲げて映っていた。セーラー服は妹が高校生のころに実際に身につけていた物で、よせばいいのに上着とスカートの隙間から肌が見えていた。背景に青く抜けるように晴れ渡った空と、撮影場所の土器川の河川敷の風景が広がっていた。

ちょうど人差し指が突き刺す上に、大きく「LIVE」とだけ書かれていて、すぐ下に出演バンドが羅列されている。一番下には、会場と開演日時が書かれてある、デザイン的にはシンプルな物だった。

妹をポスターに登場させようというのは、明日菜ちゃんのアイデアで、彼女は一度夏祭りにセーラー服を着た妹と一緒に歩いたことがあって、それが発想の原点になっている。妹以外は、クルマもレスポールも僕の持ち物で、撮影したのも僕のデジカメだった。明日菜ちゃんと妹と三人で土器川に行って、河川敷で少年サッカーをしている横でそれを撮った。集まったサッカー少年の親たちにジロジロ見られて僕は恥ずかしかったが、妹はどこ吹く風で明日菜ちゃんと一緒になってはしゃいでいた。

家に帰って簡単にパソコンでデザインした物を、藤木さんにメールで送った。結局、そのままの物がサイズを大きくして完成した。変更があったのは、出演バンドぐらいで、ちょうどデザインした時には決まっていなかったバンドが、いくつか追加されたぐらいだった。

妹の姿に目が慣れると、後は出演バンドぐらいにしか惹かれない。ライブの名前もあれやこれやと考えたが、敢えてタイトルめいたものは着けない方が「らしい」ということになった。実際明日菜ちゃんの卒業ライブ、という名目で始まったはずが、今ではフュージティブの再結成ライブに取って代わっている。

フュージティブの名前は控えめに、だけど一番最後に載せられていた。今回はバンド名の前に「明日菜with」と着いて、最も横に長くスペースを占領していた。次に長いのは、明日菜ちゃんが高校の文化祭に出たバンドで、「フレンドリー真鍋とロイヤルホスツ」だった。他のバンドは、ゲスト扱いで現役バンドではあったけれど、どこかで必ず藤木さんか上島さんと繋がりがあった。

ポスターにはフュージティブの名前の上には二つのバンド名が並んでいて、その三つのバンドをひとくくりで、他のバンドとはほんの僅か隙間を空けて書かれてあった。そのささやかな配慮に、ヨシタカ君はいち早く気づいた。

「また、あの三バンドが揃うんですか」

目を輝かせた彼に、藤木さんはうれしそうに頷いた。そして、大まかにライブの構成の話を始めた。休憩を挟む形で三部に分かれていて、最後の第三部は、フュージティブが現役だったころの再現だよ、と誇らしげに喋った。

 

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