アンコールに予定通り、カモン・フィール・ザ・ノイズを演奏してすべてのプログラムは終了した。出演者が全員演奏に参加し、最後は明日菜ちゃんのソロで締めくくった。

そして、万雷の拍手を受けながら、出演者が横一列に並び、手を繋いで頭を下げた。アーティストのライブでよく見る風景だったけれど、かつてフュージティブが現役だった頃はまだそんな習慣はなかったことを思い出す。

僕の隣には明日菜ちゃんがいて、彼女が顔を伏せた時、その瞳から涙が何粒も零れ出たのを、僕は目撃した。その涙が一段落するまで、明日菜ちゃんは顔を上げようとはしなかった。僕は彼女の肩をポン、ポンと二度叩き、その手で頭を撫でた。

明日菜ちゃんはやっと顔を上げて、そして細くしなやかな指で涙を拭った。その指はついさっきまで、ギターの指板の上で舞い踊り続けていたのだ。

それから僕の手を彼女は握りしめ、そのまま引っ張られるようにして、二人並んでステージから下りた。

楽屋に行くと、妹とユキちゃんがその日の定位置で座っていて、その隣に恵子さんがいた。

恵子さんはユキちゃんの大きなお腹を見つめながら、美しさを保ったままの微笑みを浮かべていた。

フュージティブのメンバーは最後に楽屋に戻り、つまり出演者の中で一番後になって恵子さんを見つけたのだった。

そのしんがりで戻ってきた目を真っ赤に腫らした明日菜ちゃんを認めた恵子さんは、音もなく椅子から立ち上がり、まっすぐに彼女の前まで歩いて行った。

恵子さんは明日菜ちゃんをしばらく見つめた後、手を広げて伸ばし、その中に明日菜ちゃんを導き入れた。そのまま慈しむように腕に力を込めると、彼女の顔を豊かな胸にかき抱いた。恵子さんは少し顔を傾けながら耳元に口を近づけて、囁くような声で言った。

「ごめんなさいね」

胸に抱かれながら、明日菜ちゃんはただ首を振った。輝く長いストレートの髪が、恵子さんの腕の中で揺れて、蛍光灯の光を揺らめくように反射する。

しばらく抱き合った後、恵子さんは身体を離し、そのまま明日菜ちゃんの横をすり抜けて、誰にも何も声を掛けずに楽屋を出て行った。

すぐに藤木さんが後を追い、それから打ち上げが始まるまで帰ってこなかった。

取り残されたように明日菜ちゃんはそこに立ちすくんだ。

僕はその一部始終を唖然として眺めていた。フュージティブの誰もが恵子さんの背中を追ったけれど、僕はただ、明日菜ちゃんを見ていた。彼女自身、何が起こったのかわからないように、呆然としたままだった。

沈黙の時間が流れて、その空気がフッと途切れかけた瞬間、気がつくと明日菜ちゃんの目の前に上島さんが立っていた。そして手を広げて伸ばし、唖然としたままの明日菜ちゃんを抱き寄せようとした。

あんたは違うでしょ、と言って上島さんの肩を押し戻したのは、僕と一号が同時だった。

それで楽屋の雰囲気は再び笑い声に包まれ、ほんの一瞬張り詰めた緊張が、元の歓喜に取って代わったのだった。

 

 

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