オレが今住んでいるマンションは高松駅の裏にあって、そこから今朝早くに出発して、丸亀で彼女をピックアップしてから、八幡浜経由でここまでやってきた。八幡浜から臼杵まではフェリーで、そういう旅をしたのは久しぶり、とそこでも彼女は落ち着き無くはしゃいでいたのだった。

海を渡って南に来たのだから、冬とはいえ、ある種の常夏の楽園を期待していたのに、状況は全くの正反対で、雪の全くない四国から九州に来た途端にそこは雪国だった。オレは毎年この季節にはこの温泉宿に逃げてくるのを年中行事にしているのだけど、こんな白に包まれた景色を見たのは初めてだった。

旅館に着くと、いつも応対してくれる仲居が、今年はずいぶんな時においでなさいましたね、と言って笑いながら、オレの横でなんの躊躇もなく突っ立ている彼女を見て訝しさを視線に滲ませた。それでも部屋に通されてあれこれ世間話をしていると、いい機会ですから先に温泉へどうぞ、と勧められ、今日はあまりお客さんもいらっしゃらないので、家族風呂の方は貸し切りでよろしいですよ、と敢えて彼女の方を向いて、仲居は言ったのだった。

例年は二三日逗留するのを常にしていたのだけど、今年は一泊で予約を取った。それは全て、彼女の予定に合わせたせいだ。彼女がどうやって、この一泊旅行の算段を付けたのかは、何も訊いていない。大沼の妹に話を付けたらしいが、その辺は曖昧なままだった。

ただ、そうやって明日には帰らなければならないのは、明日菜ちゃんの方で、オレは別に雪で足止めされても構わないのだった。クルマを乗り回すようになってもうずいぶん経つけれど、雪道なんて走ったことは皆無だった。だから、さすがに雪の積もった道路を走ろうとは思わない。だから、あくまでも雪で予定が狂うのを気にしているのは、彼女の方なのだ。

もっとも、ここに連れてきた以上、どう見たって彼女の親と同い年のオレの方に責任があるのだし、この場合、オレは何とかして、明日の夕刻には彼女を家に送り届けなければいけない。

オレはふと、その夕刻の光景を想像してみた。

まだ何も始まっていないのに、終わりの瞬間を想像する。これはオレの悪い癖だ。終わり、という時間はおしなべて寂しさを帯びているものだ。それを確認するように、オレは寂しさを胸にまず湧き起こさせるのだ。そうすると、耐性が出来るというか、とにかく用意されたサヨナラの瞬間をなるべく感傷的に引き受けないようにしようとするのだ。

ただ、それはいつも失敗するのだけれど。

 

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