さっきから彼女は、湯船から上がって湯を縁取った平たい石にふくよかに張り出した尻を乗せていた。足だけ湯に浸けて、時々飛沫を跳ね上げて遊んでいる。汗なのか、水滴なのか、入り混じったいくつもの軌跡が白い肌の上をつらつらと滑り落ちていく。湯から上がったばかりの頃は、白い肌がうっすらと桃色に上気していたのだけど、すっかりそれは本来の肌の色に沈んでしまった。

よく見ると、その白い肌にもいくらかグラデーションが浮いていて、それが水着の跡なのか、ただの夏色の半袖の名残なのかはよく分からなかった。それでも、消えかけて曖昧なラインを見つけようとすると、オレはまた彼女の素肌をぼんやりと見つめてしまう。

浴槽の縁に腰掛ける彼女の頭の上からも、相変わらず雪は落ちてきていて、フワフワと彷徨うように舞ってはたちどころに消えていった。どの雪の粒も、地上に落ちることはない。でも、そのままにしていると、いつもは長く腰の辺りまで垂らしているのを、適当に持ち上げてまとめた彼女の髪を雪の白が覆い隠してしまうような、そんな奇妙な想像をしてしまう。

「明日菜ちゃん、寒くないの?」

つい、見かねてそう尋ねてしまった。

「熱いんだもの」

と、子供のような答えが返ってきて、オレは思わず苦笑する。何を子供みたいに、と言いかけて、ふと彼女がまだ、かろうじて高校生であることに気付く。そのふっくらとした蠱惑的とすら思えるほどの、発育した肉付きを見ると彼女がまだ十代だということを忘れてしまう。でも、事実、彼女はまだ、この三月までは高校生なのだ。

一糸纏わぬ彼女の姿を見るのは、やはり今日が初めてなのだけど、そもそも、制服姿以外を見たのも、今日が初めてだと気付く。彼女は、オレと会う時はいつも制服で、だから一目で彼女が十代で高校生で、ということを無言で受け入れてしまう。いわば、それは学生が持っている便利な名刺代わり、ある種の履歴書の代わりみたいなものだ。制服の姿形を見れば、彼女がだいたい何処に住んでいて、どの高校に通っているかも分かるのだ。

その高校は、奇しくもオレが三年生の文化祭まで通っていた学校だった。つまり、彼女は俺の後輩ということになるが、歳はもう親子ほども違う。実際に彼女に聞くと、オレと彼女の母親は同い年だった。

彼女がオレと会う時のユニフォームをその高校の、ありふれたブレザースタイルの制服に据えているのと一緒に、手にしているものもいつも変わらず一緒だった。ピンクのストラップを肩にかけて、彼女はしなやかにくびれた曲線を持つ、レスポールタイプのギターをいつも抱えていた。

そのギターの指盤の上で、細くて長い指が踊るのを見ながら、オレはいつもキーボードを弾く。KORGの88鍵のTRITONがオレの愛機で、もう手に馴染んでしまっている。お互い、楽器を偏愛しているようなところがあって、一度愛したタッチからなかなか離れられないのだ。

彼女と初めて逢ったのはちょうど今ぐらい寒い頃で、それが去年の初めだったか、その前の年の年末だったかは定かではない。頻繁に顔を合わせたのは、去年の夏だったのだけれど、彼女はその夏休み、スタジオに通うのがほぼ日課になっていた。

 

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