三度目のメールを打ち終えたところで、僕の指がすっかり凍えて力が入らなくなってしまっているのに気がついた。三通目のメールの内容も、発信先もいずれも同じ。そして、返信もないのも同じ。この十二月の、あと一週間もすれば年が替わるという歳末の寒空の下で僕を待たせているのは、もちろん、三度のメールの宛先に記された人物で、午後三時にお城のグラウンドの横の駐車場で、とわざわざ指定してきたのだ。

メールが本当に送られているのか、僕は何度もダッフルコートのポケットからケータイを取り出しては、宛名の欄に「明日菜」と表示されているのを確認して、履歴にある三つ並んだ同じ宛先に、発送済みのマークがあるのを何度も見返す。本文にもちゃんと僕の署名である「トモ」と入っているのまで確認する。メールは送られているのは間違いなさそうだし、トラブルがあるとすれば、きっと送られて先の話なのだろう。

今日はクリスマスで、一応付き合っている僕らが顔を合わせるのは、当然といえば当然なのだろうけれど、受験を控えた恋人同士、というものはその普通がなかなか通用しない条件がいくつも折り重なっている。だから、当たり前に逢う、という感覚よりはずっと、僕は昂揚しているはずなのだけど、それがもう三十分も待たされてすっかり消沈してしまっている。

普段、同じ高校に通っていて、クラスは違うけれど、放課後には必ず顔を合わせている僕らは、それでも一緒にいる時間が少なくなった方で、前は土曜日か日曜日のいずれかは必ずデートしていた。それを、ちょうど文化祭が終わった次の日に、受験を控えてしばらく止めにしよう、と言い出したのは僕の方で、事実そうでもしないと、僕は浪人、という未来がなんとなく目前に控えていた。僕自身は、それも悪くはない、とは思っていたけれど、あまり周りは賛成してくれなかった。

僕は明日菜も同じようなモノだろう、と思ってそういう提案をしたのだけど、彼女は十月の末には推薦で横浜にある女子短大に狙い打ちで進学を決めてしまった。事後報告、というような恰好で訊かされた僕は、その早業に唖然とした。そして、いよいよ取り残された気がして僕は焦った。

僕の周りはほとんどが年明けのセンター試験にまずは照準を合わせているから、明日菜は本当に早業だったけれども、一応は県下で有数の進学校、みたいな云われ方をしている僕らの学校の中では、逆に飛び道具を使ったような訝しさを伴ってみられていた。当の本人は、そんな評判など何処吹く風で、僕にさえ、がんばってね、なんて笑いながら云って金曜の晩はやけに嬉しそうに帰っていくのだ。

だからなのだろう、今日がクリスマスで、ちょうど振り替え休日で、ならば例年のごとく少々浮かれた気分で逢うことを決めるなんて、明日菜ほどの余裕がないとできないんだろうと思う。それでなくても、僕はこのところ、そもそも進学?ということに漠然と疑問を抱くようになっていて、どうも勉強が手に着かない。一応、参考書を開いて眺めるのだけど、集中できない。学校では、もうほとんど授業は自習ばかりだし、何か強力に僕にスパートを掛けさせる何かに欠けていた。

不安の種は、目の前に浮かんでいる受験なのだけど、そもそも、僕はいったい何をしたいのだろうか、というおおざっぱとしたモノだ。やりたいことが見つからないまま、入ることの出来る大学の中で、一番見栄えの好いところ、そんな風な基準で、将来の歩く道のりの半分以上が決まってくる。それでいいのか、というよりは、そんなふうにしか将来を定められない自分にすっかり辟易していた。

それでも無理をして、僕は将来を決めようとする。溜息と共に。

 

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