夢は潰えた。あっけなく破れた。敗れるべくして、僕は敗北者になったわけだが、それでもあっけらかん、と好きだよ、と言ってのけた一号に、僕は清々しく呆れていた。ぬけぬけとよく言うよ、と返したかったが、僕はそれすらも飲み込むほどに、一号は当然のように、ユキちゃんのことを好きだと言った。やっぱりかなわないよ、と思わずにいられない。

それよりも、僕には不思議でならなかった。さっき彼女の手を握って、半ば嫌がらせのようなガサツさと、好きな女を好きと堂々と言える純粋さと、それは何となく繋がっているようで、同居していることが不思議だった。理性を取り払えば、どちらも思うがままに振る舞うことはできるが、それはきっと現実の社会ではひどく軋轢を生む。

軋轢を生むから理性を持ち合わせているのか、理性があるから軋轢を生まないのか、それはわからないけれど、理性に支配された嫌がらせと、愛の告白とは、きっと深い溝がある気がする。第一、なんでそんなに簡単に、見ず知らずの女の手を握ることができるんだ?

わがままだなとか、お調子者とか、いろんなことで一号を非難できるだろう。だから僕は、ユキちゃんのことを僕が思っていることを冗談に紛らせて宣言した。でも、だからどうしたの?で終わった。その言葉に、僕は返答する術を知らない。

ただ、変に感傷的になるとか、さっき彼女に自業自得、と罵られて奈落の底に沈んだような、どうしようもない不快感はない。逆に一号のあけすけな物言いが、僕の気持ちを軽くしている気がした。それは単純で、隙のない、完璧な返答だったからだ。どこにもつけ入る部分がなく、僕の言葉など、するりと滑ってどこにも引っかからない。

終わったね、の一言だけが僕の目の前で、乾いた音を立ててカタカタ不器用に転がっていた。唖然と見つめるだけの僕。相変わらず、一号はクスクス笑い続けていた。

しばらく呆然としていた僕は、我に返って視線を落とし、ため息をついて肩を落とした。一号はそれを通り越して、僕の肩の向こうに視線を移した。

「寄せ乳、帰るみたい」

 

次へ