最初に僕が付き合った女の子は、高校に入って最初に組んだバンドのボーカルだった。高校に上がる短い春休みの間に、父親の紹介で鉄工所の下働きのアルバイトをした。一週間ぐらいだったが、その給料とそれまでに貯めたお小遣いを合わせて、フェルナンデスのストラトを買った。アンプが付いて二万円とか、いわゆる激安初心者セットだった。

買ったのと同時に、バンドを組んだ。当時はジュディ・マリとか流行ってて、男三人にボーカルの女の子、という有り触れた構成だった。その女の子は、歌はそれほど上手くなかったし、同じようなレベルでメンバーみんな初心者に過ぎなかったけど、スタジオに入って大きなアンプでジャジャーンと鳴らしただけで、なんだか気持ちよかった。当然、勉強なんかそっちのけで、ギターばかり弾いていた。

そもそも、僕がギターを始めたのは中学の先輩の影響だ。三年生の時、隣の席の女の子が憧れていた先輩がギターを弾いていた。文化祭の時に、その子に引っ張られて音楽室でやっていたライブを見に行った。

教室には人が溢れていて、おまけに先生に内緒だったから、ドアを閉めろといわれて、僕らはもう足の踏み場も無い所に押し込められた。誰の何の曲をやっているのかもわからないウチに、あっという間に先生に見つかって、散会というか、強制退去させられたので、そのライブはアッという間だった。

でも、僕はその時に初めて、女の子に身体を寄せて、項の汗の匂いをかいだ。それは意図した行為ではなかったけど、その人いきれと熱気に頭がぼんやりして、そこに強烈に歪んだギターとガナリ声が聞こえてきたのだった。

その瞬間僕の中に潜んでいた、無自覚の欲望が爆発したんだと思う。言葉では言い表せない、強烈な衝動が僕を貫いて、そしてそのやり場が全く見いだせず、途方に暮れた。

僕はそれから勉強が手に付かず、何とか必死で考えて、やっとギターと女の子、というキーワードを見つけたのだった。それはあの時感じた衝動や、衝撃を、何とか自分で処理するために必要なキーワードだと思ったのだ。

理由なんて無い。ただ、そう思った。そして、高校に入ったらギターを買って、女の子とを付き合うんだ。そう強く願って、共学の普通科に合格するためにがんばった。合格すれば、ギターを買っても良い、という約束を両親から取り付けて、とにかく僕はその課題をこなしたのだった。

だから、ギターを買ってバンドを組んだら、次は女の子、と普通に思っていて、そこにボーカルの彼女がいたのだった。彼女は耳の折れた種類の子猫みたいな顔をした小柄な女の子で、ちょっとアンニュイな感じを漂わせていて、クラスでも少し浮いているような子だった。

戸川純が好きで、と練習の帰り道に二人で話していて、僕は当時戸川純が歌っていることを知らなかったんだけど、それなら何か出来ないかな、という話になって、セシルカットという曲があるんだけど、ギターと唄でやってみたいな、と彼女は言った。次の日彼女はCDとピアノで採った楽譜をくれた。見た事もないコードが並んでいて、僕は面食らったが、練習するのは嫌いじゃなかった。

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