金曜の夜のファミレスは、客の姿もまばらで半分以上が派手な服に身を包んだ若者だった。時間つぶしとか、時間の無駄遣いとか、そういう形容詞がよく似合う。その内のメンバーの一人であるはずなのに、自分は少し違う、と僕は思っている。きっと、ここにいる人間のほとんどが、自分はちょっと違う、と思っているに違いない。

一号が立ち上がった。手にはコーヒーカップを持っている。おかわり?と聞くと頷いた。

「だったらオレも。今度はコーヒー。頼める?」

イイよ、といって、一号はスタスタとドリンクバーへと歩いていった。僕はその背中を眼で追った。僕はその背中に、一瞬、ユキちゃんの影を見た気がして、慌てた。最近はもう、一号の視線だけがユキちゃんを忘れる唯一の防波堤にみたいになっていて、一号の監視の目が外れると、僕は途端に小さなきっかけを利用してユキちゃんを思いだしてしまう。ある意味、特技といってもイイぐらいのレベルで、もう罪悪感も曖昧ではっきりしない。その気配を紛らわせるためにさっきの路上の風景を思い出そうとして、意識を集中させたが、既にその光景はぼんやりとしていた。

諦めの溜息が出た。僕は時計を見るついでに、ケータイの画面を見た。未だ二つ折れの古い機種だ。指で操作して、中に保存してある画像をめくった。一番新しいモノから順に、めくってゆく。指は一番古い画像を表示して止まった。

そこにはユキちゃんの屈託のない笑顔が写っていた。一号が撮った、僕とユキちゃんの唯一のツーショットだった。まだ、一号とも知り合ったばかりで、当然僕とも知り合ったばかりで、少なくとも今よりはずっと、三人が三様に幸せだった時間かもしれない。

さっきよりも深い溜息をついて、画面を消すと、入れ替わりに一号が戻ってきて、僕の目の前にコーヒーカップを置いた。白いカップは、テーブルに触れて軽い音を発てた。

「ベージュのカーディガン、だよな」

元いた席に一号は戻りながら、そういって僕の目をのぞき込んだ。僕はシュガースティックを傾けながら、ああ、と素っ気ない返事をした。

「ここ、来てるよ」

え?

「さっき向こうのテーブルにいたのを見たよ」

マジで?という何とも間の抜けた返事をしてしまった。それよりも、急に目の前に、忘れていた奇跡の測道が、未だそこに続いて現れたのに、僕はひどく興奮した。確かめたい事が、矢継ぎ早に僕の脳裏を走ってゆく。それがくるくる回転しているのを見ているだけで、自然と笑顔が零れ出た。

さて、何から始めようか。

とりあえず僕は、一号に向けて身を乗り出した。一号もニヤついたまま、僕を見返してきた。子供の、それも相当いたずら好きの眼をしている。

まずは、現状確認、敵情視察か?

 

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