そんな事はおくびにも出さずに、その奇跡の測道への道しるべが目の前に現れた事を、尚も一号に熱く語ろうとしていた。
「だから、あの見せ方はね、もっとこう、足を閉じれば、見えないレベルって言うか、だからまるでAVみたいで、見過ぎとか云われても仕方ないんだけど」
一号はうっすらとした笑みを浮かべたまま、今は僕を見ている。僕は息継ぎのついでに、目の前のガラスコップを口に運ぶ。緑色の炭酸水を飲む。炭酸が抜けて、すっかり甘い。
「結論から言えば、アレは誘っているんじゃないかっていう気がするんだよ」
その状況が今目の前にあったら、きっとそんな事は言えないはずだ。それが過去の話だから、なんとでも言える。あり得ない事ほど、なんでも言える。
くすくすと一号は視線をうつむけて、笑い出した。僕は途端に照れる。
「誘っているかはどうか解らないけど・・・」
早速僕は前言を翻し口ごもる。
イヤイヤ、といった感じで、尚も笑いで頬をヒクヒクさせながら、一号は手を振った。
「誘っているかもしれないよ。バッチリ見えたんだろ?」
僕は大きく頷く。
「こっちが恥ずかしくなるぐらいはっきり見えた」
見えたというより、角度を調節して見たんだけど。
ハハハ、と声を出して一号は笑う。本当に可笑しそうに笑うのを見て、僕は少し不愉快になった。
「で、その娘は美人だった?」
「覚えてない?オレの目の前にしゃがんでいた女の子」
そういえば、女の子というよりはもっと背筋のピンとした女性だったな、と思う。
「なんとなく、覚えているかな」
ベージュのカーディガン?と一号は言って、そうそう、と僕は応える。白いシャツにベージュのカーディガンを肩にかけて、それよりは少し濃いブラウンに近い色のミニスカート。そろそろ寒さが路上に降りてくる頃で、黒いストッキングはそのためかもしれない。
「美人だったな」
一号は視線を逸らし、そう呟くと、ウンウンと何度か頷いた。
「良かったな」
そう呟いて、一号はまた声を出して笑い始めた。笑いが収まらない内に、僕は緑の気の抜けた炭酸を飲み干した。話に夢中でまだ手をつけてないフライドポテトに手を伸ばす。これはまた、塩辛い。
飲み下して、キリリと胃が痛んだ。それは一瞬だったが、僕の顔をわずかにしかめさせた。どうも平穏とは無縁のここしばらくの心持ちが、突然の幸運、と思いたがっているモノとのバランスを崩して、身体全体をおかしくしているような気がした。